前妻がおめでとうなどと言うわけがない

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 ■  翌日洋介は仕事帰りに婚約者の雪乃を居酒屋に誘った。昨晩の出来事を雪乃に話すためだ。洋介は何一つ雪乃に隠し事をしたくなかったのである。もちろん前妻と離婚に至った経緯も結婚を申し込む前に全て話してあった。 「それじゃあ私たちのこと瑛子さんはご存知なのね」 「多分そうだろうね。 誰に聞いたか知らないけど」 「一体誰かしら」 「ああっ!ジムのトレーナーの松井さんかもしれない」 「ジムの松井さん……?」 「そう、この間その松井さんがジムで話しかけて来たんだけどさ、瑛子の名前が出たから俺は早々に彼から離れたけど、確か瑛子とどこかで会ったとか何とか言ってたような気がする」 「ふーんそうなの……じゃあ私たちの結婚を瑛子さんに伝えたのは、松井さんって人で決定かしらね」 「ああ、松井さんも余計なこと言ってくれるよ全く」 「でもその松井さん、まあ少し配慮は足りないかもしれないけど別に悪くはないわ。だって私たち悪いことをしてるわけじゃないでしょ?」  あまり細かいことに頓着しない性格の雪乃はそう言って洋介に微笑むと、グラスに三分の一ほど残っていたビールをうまそうに飲み干した。 しかし彼の気持ちはまだ晴れなかった。 「俺一度瑛子に会ってこようかな。わざわざ夜中にマンションにまで来るなんて普通じゃないだろ」 「それもそうだけど……でも会うなら会うで私にちゃんと報告してね」 「そんなの当たり前じゃないか。二人の間に隠し事はなしだ」  瑛子は離婚後もあの宗教団体から離れることなく、離れるどころかそこの職員になったと、これまた人伝いに聞いていた。再婚なだけに雪乃との結婚を一点の曇りもない状態で行いたいと思う洋介は、やはり一度瑛子に会っておこうと決心した。洋介は空になった雪乃のグラスに冷えたビールを注ぎながら、母親に手を引かれマンションのドアを出る間際に、自分を振り返った時の瑛子の恨めし気な目を思い出していた。
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