前妻がおめでとうなどと言うわけがない

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 翌日会社に出勤した洋介はデスクに鞄を置くと、 鞄の奥にペン立てを重しにして一枚のハガキがあることに気づいた。表の宛名は印刷ではあるが、裏に何が書いてあるかは見なくても予想はついた。手に取って裏返すとやはりそこには、青いインクで書かれた「おめでとうあなた」の文言だ。こんな個人的な文面のハガキを会社に送り付けるなんて、さっきから周りの社員がチラチラ自分を見ている気がするのは、けして気のせいではないだろう。洋介は小さなため息をついた。  いよいよ今日にも瑛子に会わなければならない。  終業時間になると、洋介は他の誰よりも早くオフィスを出た。そしてすぐに雪乃に「瑛子に会いに行く」とメールを送ると、例の宗教団体の道場に行くべく、急ぎ地下鉄に乗った。瑛子の実家には行きたくなかった。 離婚が決まった時に実に申し訳なさそうに頭を深々と下げた彼女の両親には、もう二度と自分たちのことで心配をかけたくなかったのである。
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