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 灰色の石段を見上げれば、そこにも薄く雪が積もっており少しでも足の置き方を間違えると滑落してしまいそうな危機感を覚えた。  このブーツのソールは特殊な素材で作られており雪面で滑ることは絶対にないらしいが、万が一俺がここで滑って転んで命を落とすようなことになれば日本人は絶滅してしまうかもしれないので慎重に歩みを進める。 「しっかしなんでこんな場所に」  ザクザクと雪を踏み潰しながら階段を上っていく。その先には一部塗装の剥げた赤い鳥居が見えた。  この日本ではメカニズムは解明できずとも、年越し失敗者の救済法は見つかっている。そしてそれは現在、義務教育のひとつとして小学校で必ず習うことになっていた。あらゆるものがペーパーレス化したこの時代に、紙の教科書にそれが記載されているのは電力供給が絶たれたときのためだろうか。本当にしぶといな。  しかし今はそのしぶとさに助けられ、俺は地図アプリのGPSを頼りに近くの神社へ向かっていた。 「……ふう、着いたか」  石段を上りきり、赤い鳥居に到着した。古来より変わらない染料による朱色の前で「失礼いたします」と一礼をして、くぐり抜ける。  境内には誰もいなかった。しかしうっすらと雪の積もった地面にはいくつかの足跡が残っているので、きっとさっきまでここにいたのだろう。  参道を真っすぐに進んでいく。その道の先に、今の時代では珍しく木材で造られた大きな建造物が見えた。  本殿だ。幾度か改修もされているが、その大部分が数千年前から残っているものらしいから木というのも馬鹿にはできない。 「よし」  音ひとつない参道を進み、本殿の前で立ち止まった。本殿の入口の前には重そうな木箱が置かれており、その上部には大きな鈴とそこから太い縄が垂れ下がっている。  そこで復習を終えた俺はリュックに教科書をしまい、代わりにずしりと重たい巾着袋を取り出した。持ち上げた拍子に、じゃり、と金属が擦れる音がする。  さて用意はできた。  もう一時を過ぎてるけど、ようやく新年の幕を開けよう。 
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