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「にしても、ほんとよくこんなとこ見つけたよな」
見た目だけで判断すれば、風が吹けば一気に崩れてしまいそうなほどの古さを感じる本殿を見上げながら俺は思った。
神社の本殿の入口が去年と今年を繋ぐゲートとなっている、とはじめて気付いた人は誰だろう。もしかしたら世界でも名高い学者なのかもしれないし、たまたま遊んでいた近所の子どもだったりするのかもしれない。世紀の大発見がすべて天才によるものとは限らないしな。
「さて、最初はやっぱり」
言いながら相手の顔を思い出す。年越しに失敗した人を呼び出すには、その人の顔を思い浮かべなければいけないのだ。仮に日本中の年越しに人々が失敗していた場合、俺一人じゃどうにもならないが、まあそこは問題ないか。
やり方自体はとても簡単だ。それこそ小学生でもできる。
教科書によると、昔から老若男女問わず使われていた方法らしい。
「……ひとりって気楽で、結構楽しいけどさ」
小さく呟きながら、俺は巾着袋から五円玉を二枚取り出した。完全キャッシュレスの現代でも、この小銭はどの家にも常備されている。
二枚の硬貨を賽銭箱に投げ入れ、鐘を鳴らす。
「みんないなくなってほしいわけじゃないんだよ」
一歩下がり、頭を下げた。
二礼二拍手一礼。
これに何の意味があるかはわからないが、ずっと昔から伝わるおまじないだ。
パンパン、と柏手がしんとした雪夜に響く。
「――謹賀新年!!」
冷たい空気を大きく吸い込んで、ひとつ叫ぶ。この救済法を完成させる呪文だ。
俺が先程より深く一礼をすると、本殿の入口がぼんやりと光を帯びはじめた。その光はゆっくりと入口全体を覆いつくし、月より眩しく夜を照らす。
そしてその光の中から、見慣れた二人の姿が現れた。
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