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「あれ俊也(しゅんや)、なんでこんなとこにいるのよ! 今年は帰ってこないって言ってたのに。ねえお父さん!」 「いやまて母さん。なんかおかしいぞ。さっきまでこたつに入ってたのに雪が降ってる」 「あらまあ雪なんて久しぶりね」  エプロン姿の母とはんてんを着た父は辺りをきょろきょろと見回した。まだ状況がわかっていないらしい。 「ここはうちの近くの神社だよ。二人とも年越しに失敗したんだ」  俺はリュックからスニーカーとジャケットを取り出して二人に渡す。二人は急に寒さに気付いたらしく、それを受け取るやいなや即座に装着した。 「へえそうなの! わたし年越し失敗したの初めてよ!」 「俊也が迎えに来てくれたのか。ありがとうな」  なんだか楽しげな母と小さく頭を下げる父。  その声を聞いて懐かしさに浸りそうになる自分に気付き、もう一度気を引き締める。まだやることが残っている。 「実は他にもたくさん年越し失敗してる人がいるみたいなんだよね」 「なに。そりゃあ大変だ」 「そうなんだよ。で、俺はこれから友達呼ぶからさ、父さんたちも知ってる人みんな呼んであげてよ。ちょっと寒いだろうけど」  俺は自分の分の五円玉をポケットに詰め、中身の半分以上残る小袋を二人に差し出した。父はそれを右手で受け取る。 「おお、なるほどな。よし任せろ」 「そうね。隣の坂本さん呼ばなくちゃ。……パート先の鬼店長は呼ばなくてもいいかしら」 「おい」 「やだ冗談よお父さん」  ぱたぱたと二人は急ぎ足で俺を挟むように立って、賽銭を投げ入れる。  さっきよりも増えた柏手の音が本殿をさらに強く輝かせた。
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