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「そう思わねえ? だってほとんどの奴らが地元の高校に行くんだし、遠くに引っ越すわけじゃないんだからさ。遊ぼうって誰か声かければ、みんなすぐ集まるだろ」
「――」
素直に頷くことが出来ず、私は曖昧に微笑んだ。
――本当にそうだろうか。
今は本気でそう思っていたとしても、和久井だってきっと、いつまでも同じ気持ちでいられるわけじゃない。
高校生活を送るうちに、中学生時代を振り返ることもなくなっていくはずだ。
『いつでも会える』。――その言葉がひどく無責任で残酷なものに思えてしまうのは、わたしが“忘れられてしまう側の人間”だからだろうか。
「あの……和久井」
「ん?」
私は机の下でスカートを握り締めた。
視線を上げると、和久井がきょとんとした顔で続きを待っている。
「――和久井は北陽(ほくよう)学園だよね」
伝えようとした想いを呑み込み、私は別の話題を口にした。
「おう。拓己と一緒にな。――つーか俺、ほんとサッカーやってて良かったわ。推薦でもなかったら北陽なんか絶対無理だもん」
「油断しない方がいいよ。スポーツ推薦で入学しても、成績悪すぎたら試合に出してもらえないらしいから」
「げ。マジ」
「マジ。ちゃんと勉強もしないとね」
和久井はげんなりした顔で天を仰いだ。
「いいよなあ、委員長は勉強できるからさあ。高校、すげえ難関校なんだろ? どんだけ頭いいんだよ、お前」
私は都内の女子大付属校に進学を決めていた。うちの中学から合格者が出るのは十年ぶりのことらしい。
「別に、頭はよくないよ。その分いっぱい勉強したもん」
「いっぱいってどのくらいだよ」
「聞いたらドン引きするくらい。だから言わない」
私は澄まし顔で言った。
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