サヨナラ委員長

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「じゃ、行くね」 「職員室だろ? 俺も行くよ」 「いいって。届けるだけだし」 「けど……」 「これが私の最後の仕事だから」  私は色紙を手に、さっさと出口に向かった。引き戸の前で足を止め、振り返る。 「ねえ、和久井」 「うん?」 「私の名前って、知ってる?」 「……」  唐突な問いかけに、和久井が目を瞬(しばたた)く。  ついイジワルな質問をしてしまった。  すぐに後悔し、取り消そうとしたその時、 「お前の名前? ――ミオだろ?」  和久井が事もなげに言った。  意表を突かれ、一瞬間を置いてから思わず噴き出す。 「何だよ」 「なんでもない」 「何で笑うんだよ。ヘンな奴だな」 「いいでしょ、別に」  目の奥が熱くなる。  泣き出したい衝動が込み上げ、私はそれをぐっとこらえた。  ――嬉しかった。  当たり前のように名前を知っていてくれて、何だかもう、それだけで充分だ。そう思った。  和久井はやっぱり、和久井だ。  この人と出会えて――この人を好きになってよかった。  想いは最後まで伝えられなかったけれど、こんな終わり方の方がきっと、私らしい。
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