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「……やっぱり私も行こうかな、パンケーキ」
「そうだよ、そうしろよ」
「うん。ありがとう」
私はこれから、ゆっくりと時間をかけ、和久井に忘れられていくのだろう。
顔も、名前も、――卒業式の日、こうして二人で話したことも。
悔しいから私もさっさと忘れてやりたいところだけど、たぶんそれは難しい。
伝え損ねた想いは、きっといつまでも過去に溶け切らず、残ると思うから。
目の端を拭い、一年間過ごした教室を見渡す。
窓際に立つ和久井の姿をしっかりと目に焼き付けながら、ゆっくりと右手を上げる。
「ばいばい、和久井」
――ばいばい――。
和久井が手を振り返すのを待たず、私は色紙を胸に抱いて教室を出た。
廊下の窓の外には、桜の花びらが雪のようにちらちらと舞っている。
END
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