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「……いやに二人の距離が近いわね」
反射的に呟きが聞こえたほうを振り向いた。声の主は下級生にではなく、屋外に関心があるらしい。スツールに半分腰を浮かして窓縁から身を乗り出している。
妙な詮索を受けずに済んだ創一は胸を撫で下ろし、椿田から借りたノートをひっそり鞄に仕舞い込んだ。何事だろうと皆瀬川に歩み寄ると、安藤も肩を並べて同じく外を窺う。
目隠しフェンスで道路と隔たれた校舎の裏庭は、手付かずの雑草が一面に生い茂った場所である。西側には渡り廊下を挟んで別棟があり、鬱蒼とした小径が横に延びている。その木立の陰に人の気配があった。どうやら、生徒ではないらしい。
上下ピンクベージュのスーツを着た女の傍らに、長身の男が佇んでいる。色合いの目立たない服に身を包んでいるせいで、木陰に溶けこんで顔までは判らない。女のほうが優位な立場と見え、男は耳を傾けて頷くばかりである。
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