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平木は顔にスポーツ新聞を被せたまま、パイプ椅子に寄りかかって仮眠している。この日も無地の白い半袖シャツ姿で、肩まで捲った袖から筋肉質の腕をだらりと垂らしていた。寝息に気を散らした安藤が御手洗いに立ってゆく。
創一は顧問と二人きりになったことで、小説を読み進める間隔が疎かになった。椿田がいれば少しは意識を正常に保てるが、月が替わってから彼は部室に姿を見せていない。当然、借りたノートは鞄に忍ばせたまま未だ返せずにいる。バランスの良い丁寧な文字は中身を理解しやすいだけでなく、性格の一部を窺い知ることができるものもであった。
静かに胸を上下させていた平木が、急に新聞を退かして伸び上がった。室内に部員ひとりだけと分かると、おもむろに席を離れ斜向かいからわざわざやってくる。不意に椅子ごと創一を抱き締めた。
「……いきなり、何するんですか」
「科目別順位、遠矢と並んでトップだったじゃん。お前ら、いつ仲良くなったんだよ」
「いや、まだそんなに親しく話すよう仲じゃ……」
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