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平木はわざと獲物に齧りつく振りをする。創一はいい加減、場の状況に耐えられなくなっていたので、身をよじって逃げようとした。以外にも平木の腕はするりとほどけ、ようやく解放されたというのに名残惜しさが込み上げる。
「やだ、飢えてるからっていきなり抱きついてキスするなんて……」
「飢えてねえし、キスもしてねえわ」
「すみません、今日は早目に帰ります。傘を持ってきてないし、雨に降られたら面倒だ」
挨拶もおざなりに部室を飛び出した創一は、火照る躰を一刻も早く外気に晒したいと足早に階段を降りた。いっそのこと、激しい雨に打たれたい。校庭に辿り着いた創一は、ほろ苦い空気を目一杯吸い込んだ。
小雨が窓を叩き始めてから、だいぶ時が経っていた。劣化した電灯がチカチカと瞬く空間には、生徒ひとりの他に誰もいない。
部活を早目に切り上げた創一は、別棟の図書館に立ち寄り、手当たり次第に本を読んでいた。書棚から選んでは本を開いて、ろくに読まずに閉じて戻す。
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