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「…………知らないって、何度も言わせるなよ。欲しけりゃ自分で探したらいい」
「少しは素直になったらどうだ。毎回毎回反抗してばかりで、躰ひとつ正直になった試しがない」
両方とも聞き覚えのある声だった。混乱する頭の中でふたりの姿が往き来する。だが、こんなに語気を強めた物言いは初めてである。
「だったら、なんでキスなんかしたんだ。撮られて面倒が起きるのを判らないわけじゃないだろ」
「……建前と本音を分けているだけだ。年齢や婚姻状態など世間一般では問題になっても、相手が女であれば俺には取るに足らないことだ」
「…………それ以上を求められてもか」
「必要であれば」
「……普通、じゃない」
「お前だってそうだろう。まあ、俺と違うというなら拒めばいいさ」
渡り廊下の屋根を打つざわめきが激しくなった。担任の里は一回り小柄な生徒を欄干に押し付け、身動きが取れないように迫る。雨雫が頭上に降りかかり、頸を伝って制服のシャツを濡らしてゆく。
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