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平木は顔を綻ばせて、弁当の準主役である鯖の塩焼きを箸で取る。それを自分で食べるわけではなく、創一へ向けて差し出した。
「……なんですか、先生」
「男同士なんだから、気にするなよ」
やっとまともに口を開いたかと思うと、創一が予期していたものとは全く違う言葉が返ってきた。状況を察するに、食べろという意味だろう。深く考えずに相槌を打ったのが原因だった。創一が戸惑っているうちに、彼は渋々手を引っ込める。
「あれ、お前も苦手だったのか、鯖」
嫌々鯖を自分の口に入れた平木は、軽くえずきながらも一気に飲み下す。嚥下音が艶かしく、創一はこんな時に限って躰に熱を持ち始めた。自ら声を掛けたゆえに、すぐさま立ち去るわけにもいかない。創一は咄嗟に別の具を指差して教師に願った。
「玉子、玉子なら、美味しそう……黄色いから」
「鯖だって、微妙に黄色っぽく焼かれてただろ」
「え、じゃあ、ブロッコリーでいいや」
「了解、緑色ね」
からかい半分に笑う平木は、ブロッコリーではなく玉子を取って創一の唇に押し当てた。こうなると食べないわけにはいかない。口を開くと、甘めに味付けされた玉子と、ざらついた割箸の両方が舌に乗っかる。男同士といえど、箸を共有するには抵抗がある。嫌というのではなく、創一にとってはもっと特別だからだ。
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