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「もっといるか?」
創一は咄嗟に首を横に振る。もう充分すぎるくらいだった。
平木は今の状況などお構いなしに、箸をまた自分の口へ入れる。弁当の白飯を大口で頬張る姿が何だか少年みたいだ、と創一は上目に見ながら思う。遠矢のことが気掛かりだったため、それとなく顧問に尋ねようとしたものの、なかなか本題を切り出せずに時間だけが過ぎてゆく。その間に、創一は掲示板に張られた新聞部の記事を少なくとも三回は読んだ。同学年の所沢が十股をしているらしいという、至ってどうでもいいものだ。
四回目に差しかかろうとしたとき、強い視線が背後から突き刺さるのを感じた。創一は振り返って辺りを見回す。だが、こちらに関心を向ける者はいない。平木は散らかったテーブルに伏せて仮眠し、他の生徒は残り少ない昼休みをお喋りに費やしている。
創一は、もう一度だけロビーを見渡す。怪訝に感じながら正面に向き直ると、傍らに人が立っていたので危うく椅子から転げそうになった。担任の椿田だった。平木には無関心だった女子生徒たちが、椿田には逸早く反応する。彼はそれほど人目を惹く容貌なのだ。
椿田はいつもの微笑みを湛え、創一と平木を交互に見つめる。
「大宮くん」
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