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椿田はそれだけ言って、創一のほうを見据えた。用があるのはてっきり、視線を遣る間隔の長い平木のほうだと思っていた。彼は後ろ手に持っていた紙包みをおもむろに創一へ差し出す。
「これを」
意図が判らず、創一は受け取るのを躊躇した。担任から、何か受け取らなければいけないことがあっただろうか。身に覚えはなく、長財布程度の包みを凝視する。
「あの、何でしょう?」
「遠矢に渡してください。君とは仲が良いはずですから」
担任の口から遠矢の名前が出るとは予想外だった。先日の一件が脳裏を過る。担任が遠矢と言い争っていた、あの放課後のことである。創一が包みを受け取ってみると、コトコトとした軽量の物が入っているようだった。
見上げたときには担任の意識は別に移っており、同僚の肩を揺すっている最中だった。
「先生、授業に遅れますよ」
起こされた平木は、体を伸ばしてわずかに椿田と向き合う。だが、急速に夢から覚めたと見え、腕を使ってテーブルのゴミを片付けると素早く立ち上がった。
「いっけねえ、早く準備しないと」
「クラスを間違えて教室に駆け込んではいけませんよ。大分前に、勢いで女性教師に抱きついて、ちょっとした騒ぎになりましたよね」
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