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「……人の黒歴史を掘り返すなよ。相手がお前だったら、校長に呼び出されることもなかったのに」
平木は椿田を軽く小突いてから冗談半分に抱きつく。その瞬間、担任が眼の奥を鋭く光らせるのを創一は見逃さなかった。
意中の教師と話したがっている女子生徒たちを他所に、平木は椿田と連れ立って二階の職員室へ向かう。去り際に手を上げてくれた平木を、創一は歯痒い気持ちで見送った。
担任から遠矢への紙包みを預かったものの、どう渡せばよいのか創一は思い悩んでいた。教室でも部室でも姿を見かけないため、渡す機会がそもそもないのだ。借りっぱなしのノートと合わせて鞄は異様に重く、帰路に着くまでの道のりもいつにも増して遠く感じられる。創一の気持ちを表すように空は濁り、暗い影を落とし始めていた。
バスは田園風景を抜け市街地へ入る。廊下で擦れ違う平木に遠矢のことをそれとなく訊こうとして、結局何も情報を得られずに午後を無駄にした。さらに、昼間のことが頭を掠め、部室では横顔を盗み見るだけで終わってしまった。
創一は自分に苛立ち、溜め息を吐いた。窓には冴えない表情が映しだされている。帰宅を急ぐ車のヘッドライトやテールランプが、面白味のない顔をより鮮明にしては通り過ぎた。
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