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降車を知らせる音が車内に鳴り響く。創一の降りる停留所はまだ先のため、姿勢を変えずに夕方の街中を眺めていた。バスは速度を落としながらコンビニの前に差しかかる。ちょうど店舗から人が出てきて、駐車場を横切るところだった。そこで、創一は目を見開く。
慌ててバスを降りようとしたせいで通路で思いきり躓いた。腕を擦り剥いたが、ともかく今はあの人物を見失わないようにしなければならない。ドアは既に開いていて、創一は急いで降り口を飛び出した。
周囲を確認する。先程の人物は見当たらない。もしかして、見間違いだっただろうか。コンビニの裏手は、濃く赤い色を滲ませている。創一は何となくそちらが気になって、細い通りへ回り込んだ。
予想通り、夕闇に包まれた路地に人影があった。創一は駆けだし、目の前の肩を掴む。人違いの可能性を考える余裕もないくらい無我夢中だった。
「とおや」
振り向いた彼は、何故か目に涙を浮かべていた。暫し創一と見合ったのち、とても驚いた顔つきになる。
「……創一、どうして」
「泣いてるのか?」
「いや、これはあれさ……。悪いんだけど家まで付き添ってくれるかな、すぐそこなんだけど」
遠矢は涙を拭い、曲がり角にある集合住宅を指差した。
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