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「……いいけど、買い物袋持とうか?」
「いや、寄りかからせてくれるだけでいい」
昼休みに椿田が平木に抱きつかれたような姿勢で、創一は遠矢をマンションまで運ぶ。背丈が同じくらいなので、躰を支えて歩くのにさほど負担はない。遠矢が提げている重たそうな買い物袋が何度か太股にぶつかった。
タイル張りの玄関アプローチを進み、木目調のエントランスホールへ入る。オートロックマンションのため、ロックは住人である遠矢が解除した。エレベーターに乗り込み、六階の突き当たりで遠矢が離れる。部屋の鍵を開けるためだ。ドアを押さえて先に室内へ行くよう促す遠矢に、創一は自ら躰を添わせて一緒に中へ入った。
玄関から延びる廊下の奥にリビングがあった。遠矢はそこのテーブルに買い物袋を置き、創一へ微笑む。
「ありがとう」
遠矢は椅子を引いて腰を下ろす。疲れた様子で少しの間もたれてから、創一にも座るように言った。
リビングには、この椅子がテーブルを挟んだ状態で一脚ずつ、ソファーベッド、大きめのテレビ、その隣に観葉植物、テレビ台にはデジタル時計があり、ちょうど十九時になったところだった。
部屋の中をきょろきょろと見回す創一に対して、遠矢は吹き出すのに近い笑いを漏らす。
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