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「……そんなに珍しい?」
「ああ、ごめん。つい……」
ひょんなことから気掛かりだった同級生の自宅へ上がり、創一は礼儀より好奇心が勝っていた。
「ほら、綺麗に掃除されてるなと思って」
「別に普通だよ。大したことないさ」
遠矢は事も無げに話したが、創一には滅多に見ることのない部屋の光景だった。母親が片付けのできない性分なうえ、創一が掃除をしても一日で元に戻るので、片付いた家にいることがないのだ。
意外にも朗らかな感じの遠矢に創一は安心した。黒いパーカーに黒いティーシャツ姿のラフな格好がよく似合う。学校にいるときとはまた印象が違って、いくらか砕けた感じだ。全く雰囲気が異なるのに、刹那の間、担任の椿田とフォルムが重なった。
「……忘れてた。遠矢に渡さないとってずっと思ってて」
創一は鞄からノートを取り出す。担任を思い出したのは預かった物があるからだろうと、借りていたノートと合わせて紙包みをテーブルに並べた。
「わざわざ済まないな。創一って律儀だね」
「その紙包みは僕じゃないんだ。……預かったっていうのか、断れなくて」
創一は担任の名を口にすることを避けた。遠矢がいい顔をしないだろうと、直感的に思ったからだ。
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