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「大したスクープも手に入らないですし、暇ですねえ先生」
前に垂れていた長い髪を後ろへ払いのけた皆瀬川は、写真を懐に仕舞い溜め息をついた。彼女は安藤の背中越しにノートパソコンを覗きこみ、腕を組んで呆れた眼差しを送る。
「ちょっとお、今期注目の運動部員なんてどうでもいいわよう。そういう記事は本当の記者が暇潰しに書いて地元を盛り上げるんだから……。そもそも宇仁って誰よ」
「私と同じ二年で、テニスの準エースをしています。昨年のインターハイでは残念ながら結果を残せなかったようですが、懇親会では大盛りの雲丹を平らげて食事券を獲得したとか。……うに、だけに」
律儀さと真面目さを兼ね備えた顔がほんのり緩む。だが、すぐに表情を戻すと眼鏡のリムに一旦指をあててから、再度タイピングをし始める。よくある楕円形のフレームが彼にはよく似合っている。
「奥の二人も俯いてばかりいないでさあ……」
ターゲットが切り替わり、創一は身を縮めた。対面して座る椿田は相も変わらず、厚いレンズをページに擦り付けるような近さで書籍を読んでいる。幅広のバンダナで髪をまとめているが故に、常に不服そうな眉間の皺が創一へ向けられていた。
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