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「それじゃ、平木先生に車出してもらわないとねえ」
半強制的に交通手段の打診を願われた平木は、仕方なく了承の返事をする。そのさい、欠伸をしながら再び背伸びをしたために、シャツの裾から腹部が垣間見えた。
創一の目線は不意にその箇所へゆく。たった一瞬のことながら、思ったより筋肉質であると気付いた。つい、衣服の下を想像してしまう性質が疼く。
安藤も作業を切り上げてきたので、一行は各々の荷物を持ち廊下へ出た。反対側の突き当たりから、吹奏楽部の熱心に練習する音が聞こえてくる。時刻はまだ午後の四時を回ったばかりで、生徒たちの活気は盛んである。平木は階段を降りる手前になって、きまりの悪そうな顔になった。
「……いっけね、同僚の里から呼ばれてたんだっけ」
さとし、とは世界史を受け持つ教師の名前である。若いながら、創一がいるクラスの担任でもあった。苗字の椿田と呼ばないところに親しさが窺える。
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