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平木は困った様子で頭を掻き、手短に弁明した。相談事があるので少しばかり時間を取って欲しいと、申し出があったという。
「俺みたいないい加減なやつに相談ってなんだろう」
「三十路までに結婚したいんです、先生みたいに草臥れたくないから、とか」
「……余計なお世話だよ。第一、男がそんなこと言うかよ」
「分かりませんよお、結婚はひとつのステータスですし。それに、“椿田”君ならここにもいますし、彼の話も店の席でゆっくり聞きましょうよ」
さりげなく教師同士の付き合いを後回しにするよう促した皆瀬川だったが、椿田は会話が自分へ向けられたことで、あからさまに表情が険しくなった。すかさず、場の空気を読まない平木が更に口を開く。
「まあ、あいつと呑んでると時間も金もあっという間だしな。遠矢だったら水かジュースで安く済むだろうし、いくらでも飯食わせて話を聞いてやるぜ」
「……お前は食わせるほうじゃなくて、喰われる側、だろ」
足払いされた平木は、バランスを崩し膝から落ちた。この日第一声を発した椿田はなぜか皆の感嘆を受け、先に階段を降りてゆく。
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