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その日の夕方、バイトから帰ってきた太一がざっと部屋を片付ける。起床した際に布団をたたむ癖を付けているし、鼻をかんだちり紙や食べ物の包装紙などはその都度捨てているので、そこまで言うほど散らかってもいない。コントローラーのコードをくるくると巻いていると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。足の裏にへばりついた薄手のビニール袋を取りながらドアを開けた。
「早かったですね。」
「………………。」
返事が返ってこない事を不思議に思い顔を上げると、そこに立っているのは純ではなく見知らぬ男だった………。
「あ……えーと……どちら様でしょう……?」
「隣の長谷川と申します。」
「あ、え?お隣さんですか?あ、僕何かご迷惑を……?」
「いいえ、ちょっとお話があって。」
「……………?」
取り敢えずどうぞ。と謎の長谷川さんを家の中に招き、玄関先で話を聞くことにした。
「ここのアパートって、壁薄いじゃないですか………」
「あ、はい………」
「それで、いつも峯田さんが喋ってる声が聞こえてて………」
「あ、やっぱり騒音ですよね?すみません、これからはもっと気を付けます!」
「あ、いいえ、違うんです!」
「え…………?」
「ルフィアス、お好きなんですか?」
…………これはまさか…………!!
「はい………!!大っっ好きです!!」
「実は僕もなんです!」
…………キタァーーーー!!オタク仲間だよ!!やっとできたよ僕にも友達が!!
「え、ちなみにどのシーンがお好きですか?」
太一が目を輝かせて長谷川さんに尋ねる。
「うーんどのシーンも好きだけどなぁ………やっぱりコータが隊長に土下座をするシーンですかね………。」
「あぁもうやばいですよねアレ………僕何回あのシーンで泣いたか分かりません!」
……………ぁぁあやばいよー………語り合える!引かれる心配なく語れる!これが友達かぁ………もっと早くに作っておくべきだった!
二人がアニメの話に熱中していた時、再び呼び鈴が鳴った。ドアを開けると「よっ。」と純が手を挙げて挨拶をした。太一のすぐ隣にいる男性に気が付いた純が軽く自己紹介をする。
「あ、初めまして、武内です。」
「あ、どうも……長谷川です。」
「長谷川さん、お隣さんなんです。」
「あ、そうなの?」
「長谷川さん、この方はお巡りさんなんですよ。見えないですよね!」
「あ、そうなんですね!わぁ凄い………峯田さんお知り合いに警察の方がいらっしゃるんですね!あ、じゃあ僕はこれで………」
ガチャっと太一がドアを閉めた直後、また隣でガチャっとドアを開ける音がする。彼が本当に隣人であることを実感し、そんなまぐれがあるのだな……と肩をすくめた。
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