おめでとうを、君に

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 どこにも居ないアイツのことを頭の中で振り返る。雲のような人だった。何を話しても響かないし、あまり笑わない。かと思えば急にけらけらと高らかに笑いだしたりして、コロコロと変わる空模様のような、けれど上手く掴めないそんな雲のような人だった。だからここまで親しくなれたことが不思議で仕方がない。我ながら上手く手懐けたもんだと思いながら空き教室の時計を確認した。時刻は入学式の15分前。  そろそろ見つけてあげないと。    朝から我慢していた涙がぼろぼろと古い校舎の床に落ちては染み込んでいく。まだだ、まだ、今じゃない。なんならこれから一生このことで泣くことなんて無くていい。無い方がいい。私まで雲のように表情を変えてしまったら、そしたら。あいつがコロコロと表情を変えることは無くなってしまうような気がした。
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