Mr.Lonely black dog,Miss Tiny stray cat.

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 しかし例年通り、午後にはお年賀のお客様もいらっしゃったので、それは杞憂だとわかった。伯父様と瞳子さんはそちらの対応に入られたので、心苦しいが、退出のご挨拶もそこそこに、遠宮のお家を後にした。 「じゃあ芙美さん、またね。伯父さん達にも宜しく言っといて」 「お世話になりました。今年もお節ありがとうございます」 「茉緒ちゃんもお土産、ありがとうございました」 「三ヶ日明けたら休暇でしょ?今年は何処へ行くの?」 「今千歳が京都にいるので、遊びに行ってきます」 「えー、ちい兄、京都なんだ。いいなぁ」 「と言っても、例によって山奥ですけど」 「茉緒、芙美さんの息子さんて、仕事で日本中転々としてるんだけどさ、今京都なんだって」 「ダムを造ってるって方ですか?」 「ええ。建設予定地に近いところに住むので、いつも辺鄙な場所ですがね」 「奥さんがフットワーク軽い人で良かったよね」 「逞しい子ですよ。どこへ行っても不便な土地で、子供二人育てるんですから」 「凄いですね。じゃあお休みには、お孫さんとゆっくりお会い出来ますね」 「やんちゃ盛りなので、休みになるかどうか」 と言いながらも、芙美さんの表情は柔らかい。 「楽しんで来て。ちい兄にも宜しく」 「伝えますね。お二人も、気を付けてお帰り下さい。茉緒ちゃん、お着物よくお似合いですよ」 「嬉しいです。じゃあ」  芙美さんとマックに見送られながら、実家に向けて出発した。お着物は嬉しいけど、毛が付くのでマックと思い切り触れ合えないのが残念だ。 「折角だから、途中どこかで初詣に行こうか?」 「そうだね」  スマホで検索し、帰りの道沿いから近い神社のうち、ご利益がありそうなところを選んだ。 「ここは商売繁盛…こっちは家内安全、厄除けだけど、ちょっと遠いなぁ。あ、ここ風の神様だって。困難や逆風を吹き飛ばすって」 「いいね、その勢いある感じ」  元旦で混雑が予想されるので、メジャーな大きな神社は避け、車が駐車しやすそうなところにした。 「国道からちょっと入っただけなのに、森感がすごいね」 「御神木は樹齢四百年だって」  勿論混んではいたけれど、周りを大きな木々に囲まれたお宮の佇まいは清々しかった。  御神木を削って作ったという交通安全のお守りと、風のお守りという、珍しい丸い形のお守りを買い、素朴な感じの本宮にお参りした。  風の神様と言うだけあって、木立を抜ける風の音が、どこか神々しい様な気がした。昔の人は、そういうところに神様を見出していたのかもしれない。
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