Mr.Lonely black dog,Miss Tiny stray cat.

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11月某日 大安吉日。  私=穂坂茉緒は、同僚であり、幼馴染みでもある有希乃ちゃんの結婚式に列席していた。  色鮮やかなステンドグラス越しに秋の陽光が降り注ぐチャペルは厳かながらも華やかで、結婚願望のまだない私でも、うっとりせずにはいられなかった。 「有希乃さん、キレー…」 「背高いから、ドレス似合うよね」  未婚率の高い新婦側の列席者からも、憧れの溜息が漏れた。有希乃ちゃんは長身の美人で、中学、高校とバスケ部のキャプテンを務めてきたせいか、姉御肌で面倒見が良く、後輩の女の子達から慕われている。 「そう言えば、聞いた?」 「何?」 「新郎側からの情報なんだけど、披露宴に“キング”招んでるって」 「えっマジ?」  同僚の女の子達が噂している“キング”こと遠宮梓さんは、職場の有名人だ。  私達の職場は、東京にある大学病院の地方分院で、私はリハビリテーション科の事務員、同僚は理学療法士や作業療法士をしている。療法士は専門職だが、私自身は医療の知識は殆ど無い、一般職だ。  遠宮さんは、ME=メディカルエンジニアと呼ばれる職種の人が手術で使用する機械を開発する会社の社員で、新しくうちの病院で導入した機械の操作のレクチャーとメンテナンスの為に、一ヶ月程前から出向してきているのだが、赴任初日から注目の的だった。 「嘘でしょ?誰繋がり?」 「友枝先生の高校の同級生だったらしいよ」 「ウッソ、でかした!」 「えー…“キング”の礼服姿とか、破壊力ハンパなくない?」 「ツーショット待ちの列、出来ちゃうよ」 「主役霞んじゃうんじゃないの?」  新郎の、呼吸器科の友枝医師の高校の同級生だったと聞いているが、医学部に進学するような人と同じ高校ということは、それだけでかなり偏差値が高いことがわかる。しかも彼の勤める会社は業界大手で、そこで開発とかしちゃっている時点でもう、相当凄い人だってことだ。  その肩書きだけでもモテるだろうに、モデル顔負けの綺麗な顔とスタイルで、人当たりも良く、仕事も親切丁寧。女性は勿論、男性にまで人気があった。  仕事では一切接点の無い筈のリハビリ科の女の子達の噂話だけでも、看護師が何人玉砕したとか、マドンナと呼ばれる女医が言い寄ってるとか、受付の女性達や入院患者の間でファンクラブが出来てるとか、とにかく話題に事欠かない人だった。  式が終わって披露宴会場へ移動すると、予想通り、会場前のロビーでは既に、彼の周りに人だかりが出来ていた。新婦の有希乃ちゃんは理学療法士、職場結婚なので、新郎側にも知った顔が何人かいた。 「うわ、もう取り囲まれてる」 「スーツ、ヤバイよ。後光差してる」 「田舎のおばちゃん、芸能人とか思っていそう」  同僚達も、アイドルを眺める様に、遠巻きに遠宮さんを眺めている。  やがて、 「お集まりの皆様、間もなく披露宴のお時間となります」 と、式場の係から声が掛かり、ロビーに集まった人々は会場へ入って行った。
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