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「珍しいじゃん、どした?誰かに用事?」
MEとリハは仕事上は直接関係が無いので、他のMEさんが仕事の用事でここへ来たことは、今まで無い。
「そういう訳じゃないんですけど。今ってお邪魔して大丈夫ですか?」
「もう終業時間だからいいよ。バイク漕ぎに来たとか?」
訓練室には様々な運動器具も置いてあるので、運動不足の医師が職権濫用で、エアロバイクやランニングマシンを使いに来ることがあるのだ。
「あ、それやっていいの?」
「空き時間なら構わんけど」
「今度借りに来ます」
と言うと、女子達の目が光った。ここで遠宮さんが汗を流していたら、ギャラリーがヤバいことになるだろう。
遠宮さんは小谷さんと話していて、勇気ある何人かが会話に混ざりに行ったので、私はそのままカウンターに入り、仕事に戻った。
帰りがけに遠宮さんはカウンターに肘を乗せ、
「ありがとう、…穂坂さん」
と、私の名札を見ながら言った。そうかあの人、私の苗字すら、今知ったのか。
「いやー、いいもの見たわー」
「この間の礼服もかなりの破壊力だったけど、やっぱ白衣もいいよね〜」
遠宮さんが出て行くと、皆が一斉に、止めていた息を吐き出す様に喋り出した。
「ていうか、遠宮さん、結局何しに来たの?茉緒ちゃんが連れて来たよね?」
「連れて来たって言うか…廊下で会って、訓練室見たいって言うから、案内しただけです」
「そういや茉緒ちゃん、有希乃さんの結婚式の二次会の時、遠宮さんと結構いい感じじゃなかった?」
「え、そうなの?」
「隣に座って飲んでただけですよ」
「何それ、羨ましい」
「遠宮さんて彼女いるのかな〜」
「いない訳ないじゃん。東京にモデルみたいな彼女いるよ、絶対」
「だよね〜。でも、こっちにいる間だけでもいいから付き合いたい…」
「アレと付き合うとか、大変そう。メチャクチャ妬まれそうだし」
「私もパス。自分より綺麗な男とか、プレッシャーでしかないわ」
離れ小島のリハ科でさえこんな反応なのだから、女性がほとんどを占める病棟の看護師さん達とかは、もっとすごいんだろう。今までの人生、あんなキラキラした人と出会ったことがないので、対応がわからない。
でも、ほんの少し関わっただけなのに、この三日間だけで女性の敵を何人か作ってしまった様な気がして、ちょっと気が重くなった。
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