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二次会には主に、職場の同僚達が集まった。
最初の席はくじで決められたが、私は仲の良い子達とは離れてしまった。人見知りをするので、こういう場は正直苦手だが、いい大人としてそうも言っていられない。
だが隣に座ったのは酒癖の悪い人で、披露宴でも散々飲んだのだろう、席についた時からかなり酔っていた。
「ねー、名前は?新婦さんのお友達?かわいーね、ね、彼氏いんの?」
「えっと…」
端の方の席だったので、無視する訳にもいかず、いつ抜け出そうかと困っていると、思わぬ人から助け舟が出された。
「ああ、ここにいた」
肩を叩かれて見上げると、綺麗な顔の男性ーー遠宮さんが、真っ直ぐ私に笑いかけていた。隣の酔っ払いの男性でさえ、その笑顔にぼうっとしたぐらいだ。
「ヨーコちゃん。有希乃ちゃんが話したがってたよ」
と、いきなり私の手を引いて立ち上がらせるので、驚いた。
「えー、行っちゃうのー?」
「あ、あの、人違い…」
「シッ…あいつに名前、教えたくないでしょ」
「あ…」
遠宮さんは、手慣れた風に私の肩を抱いて、新婦の有希乃ちゃんの近くの席へ連れて行ってくれた。
「まぁた変なのに捕まって〜。ホント茉緒はボヤッとしてるんだから。
ありがとうございます、遠宮さん」
綺麗に髪を結って、いかにも花嫁風の白いワンピースを着ていても、有希乃ちゃんの姉御な口調は変わらない。遠宮さんに向けたお礼の方は、いくらか他所行きの声だったけど。
「どういたしまして。本当は、まおちゃんて言うんだ」
「あ、はい…。ありがとうございました」
近くで見ると、目がチカチカしそうな笑顔だ。声も落ち着いたいい声で、自分の名前を呼ばれているなんて信じられない。気を強く持たないと、悪酔いしてしまいそうだ。
「穂坂さん、ごめんね〜。あいつ、酒癖悪くてさ」
と、新郎の友枝先生が手を合わせた。
「茉緒はよく、ヘンなのに好かれるから」
「ゆっちゃん、ひどい」
とは言うものの、絡まれる度助けてくれたのは彼女なので、強くは言えない。隙があるのか何なのか、確かによく絡まれる。
周りには親しい同僚達と、遠宮さん目当ての女の子達が集まり、気付けば、一番賑やかなテーブルの真ん中にいた。その華やかな笑顔は周りを明るくさせる効果があるのか、遠宮さんがいるだけで、いつもの顔触れの気安い飲み会が、特別なパーティーの様に感じられた。
私はそれまで彼を、一方的に知ってはいたけど話したことはなくて、この先も特に関わり合うことはないと思っていた。初対面の人と接するのが苦手で、男の人ともうまく話せないのに、遠宮さんは、モテるだけあって女の子の扱いが上手で、一緒にいると、何だかいい気分になれた。
しかし、お手洗いに行く為に一度席を立つと、彼の隣を狙っていた女の子に席は奪われており、再びそこに割り込む気力も無かった。他のテーブルに移ってまた絡まれたりしても面倒なので、そのまま帰ることにした。
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