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火曜日は、午前中の仕事が押したので、少し遅い時間に昼休憩に行った。
私はその日、お弁当持参だったが、リハビリの午後の訓練が始まっていたので、職員食堂のテーブルだけ借りて食べていた。すると、入口近くの席にいた看護師のグループがざわついたかと思うと、遠宮さんと数人のスタッフが食堂に入ってきた。職員食堂に来るだけでどよめきが起こるなんて、本当に芸能人みたいだ。
私は隅の方の席で一人静かに食べていたのに、何故か食事のトレイを持った遠宮さんが近付いて来る。嫌な予感はしたが、やはり彼は私のテーブルに来て、
「ここ空いてる?」
と、声をかけた。それなりに混んではいるが、他に空席が無い訳ではない。かと言って、理由も無く断る訳にもいかないので、
「はい」
と言うしかなかった。しかも、六人座れるテーブルなのに、わざわざ私の正面の席に座る。
彼の連れも次々と席に着き、周りを囲まれる様な形になったので、早く食べて席を立とうと思った。
出来れば彼が私を忘れていて、ただ偶然、相席になっただけならいいことを願った。
しかし、勿論そんなことはなく、遠宮さんは、
「茉緒ちゃん、お弁当なんだね。自分で作るの?」
と、ナチュラルに話しかけて来る。
「…はい」
「すごいね。女の子っぽい」
そして、意味も無く持ち上げないで欲しい。必要だから作るだけだし、家にあったものを適当に詰めただけなのに。
「凝ったものは作りませんよ」
「そう?普通に美味しそう」
「そうですか?」
この人に憧れてる子なら、“食べます?”とか“今度作ってあげましょうか?”とか言うんだろうけど、私は出来れば日々平穏に、隅っこの方でささやかに生きていきたいと思っているので、無駄に悪目立ちしそうなこの人に、必要以上に関わるのは避けたい。ので、とりあえずスルーした。
当たり障りの無い会話をしているだけだけど、とにかく周りからの視線が痛い。
お弁当を食べ終わると、わざとらしく腕時計を見て、席を立った。
「休憩、もう終わり?」
「はい。お先に失礼します」
「うん、またね」
…“また”ってなんだろう。
職員食堂を出ると、どっと気疲れがした。明日から食堂に来るの、やめようかな。
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