Mr.Lonely black dog,Miss Tiny stray cat.

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 連休が明けると、実習に向けて、実践的な授業内容が増えてきた。  移動介助の授業では、ペアを組んで患者と療法士になり、車椅子からベッドに乗り移る際の介助方法や、体位交換のやり方などを実践して学ぶ。患者さんの重症度によっては、抱き抱える様に支えて、安全に移動させなければいけないのだがーー 「まおまお頑張って〜」 「頑張ってるけど〜」 「花音がよっぽど重たいのかって思われちゃうよ」 「え、やめて〜」 「茉緒ちゃんて、本当に期待を裏切らないよね」 と、千冬さんが、面白そうに言った。  患者さんとタイミングを合わせ、自分の体重を軸にしてうまく移動させられれば驚くほど軽い力で動けると、元看護師の千冬さんは言う。しかし、四センチしか身長差のない花音ちゃんとペアを組んだにも関わらず、私は彼女を動かすことが出来なかった。  しかしこれが出来ないことには、私のOTへの道程は厳しくなる。分院では、私よりも小柄な郁ちゃんが出来ていたのだから、私に出来ない筈はない。  さすがに危機感を感じ、二ヶ月サボっていたジムに行き始めることにした。  ジムは、細々ながらも続いていた。  体育は嫌いなくせにジムならいいのかと言われてしまうと困るが、運動するのが嫌な訳ではなく、集団だと、ついていけなくて迷惑を掛けるのが嫌なのだ。  その点ジムは、個々に黙々と出来るので、気が楽だからいい。  ここのジムの会員は、かなりガチで鍛えている人が多くて、年末の格闘技の特番とかに出てる様な人も通っていると言う。私は格闘技を観る趣味はないので詳しくはないが、他の人の鍛え方を見ていると、私の様な平均以下の運動神経しかない素人が本当にここにいていいのか不安になる。  そんな私でも、末端ながら一応会員として認めてもらっているらしく、時々でも姿を見せないと、インストラクターさんや会員のマッチョなお兄さん達が“また熱出たの⁈”と心配してくれるので、テストの前などでしばらく顔を出せなくなる時は、事前に連絡を入れていた。  今回、体調不良と、新年度が始まるからという理由でしばらく休むことは、梓から連絡してもらってはあったが、二ヶ月以上行っていなかったので、久し振りに行くと、ちょっと緊張した。
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