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トレーニングルームに顔を出すと、
「お、茉緒ちゃん、久し振り」
と、早速インストラクターの瀬田さんに声を掛けられた。
「こんばんは。すみません、ご無沙汰しちゃって」
「もう体調、いいんだ?」
「あ、はい、体調はもう随分前から大丈夫だったんですけど、新学期が始まって、バタバタしちゃって」
「そっか、また一から頑張ろうね!」
一からか。二ヶ月サボるとリセットってことかな。恐ろしい。
「よろしくお願いします」
持久力とかは相当落ちていたが、久し振りに思いっきり蹴ったり殴ったりすると、思いの外気持ち良かった。
「ほーい、少し休憩。水分摂って」
「はい」
「体力は相変わらず無いけど、形は様になってきたじゃない」
「本当ですか?」
「うん。サイレントで見てたら、一端のボクサーっぽいよ」
それは、ミットに当たる音がとても小さいからだろう。でも、痣になったり筋肉痛になる頻度も、以前より減った気がする。
休憩していたら、スパーリングを終えて汗だくの梓が隣に座った。
「どう、鈍ってない?」
「メチャクチャきつい」
「徐々に戻していけばいいよ。無理しないで」
「うん。でも今、瀬田さんに褒められた」
「へえ。なんて?」
「ボクサーっぽく見える様になってきたって」
「それはすごい」
と、全然すごく思っていない風に言う。
「新しい人、入ったんだね」
と、ジムの中を見回して言った。
「年度変わるとね。入学した人とか入社した人とかが入ってくるから」
「そっか」
「茉緒、先輩になったんだ」
「教えられること、殆ど無いけどね」
なんて喋っていたら、女の子が入って来た。
少ないけど女の子の会員もいるとは聞いたが、ここで姿を見た事はほとんどない。しかも、かなり男臭いし、硬派な感じの人が多いので、あまり長く続く女の子がいないらしい。細々ながらも一年続いた私は、長い方だと言う。
それでいて、まだサンドバックもまともに叩けない程鈍臭いのも珍しいらしく、見かねた会員さんがアドバイスしてくれたり、弱々しい蹴りを受けてくれたりする。
その女の子は、私と同じくらいの年だろうか、初めて見る顔だ。ハーフトップから覗くお腹は引き締まっており、一年通っている私より相当鍛えられている様に見える。
「女の子、久し振りに見た」
「ああ、あの子も三月末くらいから来てるよ」
「そうなんだ。話したことある?」
「挨拶とか、質問ぐらい」
「いい体してるね」
「その言い方もどうかと」
「私も、彼女くらい目指そう」
「…人には向き不向きってもんがあるからね」
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