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梓はまたシカゴ本社との打ち合わせが入っていたので、朝帰りになると言っていた。
梓からはタクシーで帰る様に言われていたが、まだ九時過ぎだし、明日自転車を取りに来るのも面倒だったので、自転車を押して歩いて帰ることにした。
昼間は賑やかな商店街も、この時間になると全てシャッターが閉まり、人通りも少ない。でももう一年以上通っている道だし、今まで危ないこともなかった。
商店街を抜けると住宅街になり、更に暗くなる。地元の道はもっと家もまばらで街灯も少ない。だから、いつもなら、何も気にならない。でも、新谷さんのことがあったせいか、以前より過敏になっている気がした。
背後から足音が聞こえるとビクッとして、恐る恐る振り向くと、犬の散歩をしている高校生くらいの男の子が歩いていた。私が振り向いたのにも気付かず、その子は道を曲がって行ってしまったが、私は足を早めて家に向かった。
アパートの斜め向かいのコンビニの明かりが見えるとホッとして、気を落ち着かせる為にコンビニに立ち寄った。
レジには店長の飯島さんがいて、
「あれ、茉緒ちゃん遅いね、今帰り?」
と声を掛けてくれた。
「はい。今日は外食して来たので」
「そうなんだ。一人で帰って来たの?暗いのに」
と言われてしまったので、
「自転車ですから」
と言い訳をした。飲酒運転になるので、本当は押して歩いて来たんだけど。
特に買う物も無かったが、店に入ってしまった以上何も買わずに出るのも申し訳なかったので、プリンと炭酸水だけ買って、家に帰った。
当然ながら梓は帰ってなく、家は真っ暗だった。
ドアに鍵を掛けて部屋の明かりを点け、テレビを点けた。いつもはバラエティ番組とかあまり観ないけど、人の笑い声を聞くと安心して、力が抜けた。怖がるくらいなら、梓の言う通り、ちゃんとタクシーで帰って来れば良かった。
そう言えば、私が通っているジムでは、護身術も教えていると聞いた。
梓にいつまでも送り迎えしてもらう訳にいかないし、就職すれば、残業とかで遅く帰る日も増えるだろう。今度ジムに行ったら瀬田さんに教えてもらおう。
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