Mr.Lonely black dog,Miss Tiny stray cat.

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 将来の仕事の為にも保身の為にも筋トレが必要と悟った私は、時差ボケの梓が眠ると、ジムに行った。 「護身術?」 「はい」  教えて欲しいとインストラクターの瀬田さんに言うと、一瞬厳しい表情をされた。 「いいけど、…何かあったの?急に」 「そういう訳じゃ無いですけど、いざ何かあった時に、心得があるのと無いのとじゃ違うかなって思って」 「それはいい心掛けだけど」 「…私には難しいですか?」  瀬田さんがあまり乗り気そうじゃなかったので、恐る恐るそう尋ねた。 「そうじゃないけど、そういう機会がないに越したことはないし、一番の予防は隙を作らないことだからね。まあでも茉緒ちゃんなら、自分の力を過信することも無さそうだし」  褒められたんだよね?そういうことにしておこう。 「じゃあ基本の型やってみようか」 「お願いします」 「まず、こう手を掴まれたとする」  男性の会員さんにも手伝ってもらい、瀬田さんが実演してくれた。いかにも力の強そうな男性が、瀬田さんの手首を掴む。 「力任せに引っ張ったところで抜ける訳ないし、逆に自分が脱臼したりする。じゃあどうするか」 「どうするんですか?」  瀬田さんが幾ら鍛えているとは言え、男性の本気の力で掴まれた手を振り解くのは難しいと思う。でも瀬田さんは、何をどうしたのか、するっとその腕から逃れた。 「え、今、何がどうなりました?」 「スローでやるとこういう感じ。こう両手を組んで、捻る様に」  瀬田さんは、特に力を込めている様でもないのに、易々と掴まれた腕を解いて見せた。 「…手品みたい」 「要は、力の法則ってこと。引き抜くんじゃなくて、逃す感じ。正攻法じゃ絶対に敵う訳ないからね」 「成程」 「こうやって、力の入りにくい角度に持っていって、抜く。もしくはこう、肘を梃子の原理で起点にして、抜く」  こういうのは、OTとしての知識にも役立ちそうだ。関節の角度とか可動域を知っていれば、それに逆らう動きをすればいい。頭ではわかっていても、実際出来るかは別だけど。
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