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夕食が終わると、これも恒例の、年越し宴会が始まる。
「これがミレニアムパークのクリスマスツリーです。大き過ぎて、上手く撮れなかったんですけど」
「大きさは伝わるよ。て言うか、街全体が異国風でいい雰囲気」
「異国だからね」
冷静に突っ込んだ櫂先生を、春妃先生は無言で引っ叩き、スマホのアルバムをめくってゆく。
「わ、このツリーも可愛い」
と声を上げたのは、梓の生まれた街の教会の、水色を基調としたツリーだった。
「静かな雰囲気ね。ここもシカゴ?」
「…はい」
故郷の街を訪ねたことを、梓は伯父様達に伝えたいのか隠したいのか判断出来かねたのだが、梓は普通の顔で、
「オレが子供の頃に住んでた街の教会のツリーだよ」
と告げた。
伯父様は強張った表情で梓の顔を見て、楽くんをあやしていた瞳子さんも一瞬動きを止めたが、梓が穏やかに微笑んで
「幼馴染みやご近所さんに挨拶して来た」
と言うと、その一言で理解し、安堵された。
「…変わりなかったか?」
お二人の気持ちを代弁するかの様に、櫂先生が、慎重に梓に尋ねた。
「そうだね。さすがに記憶通りではなかったけど、色々懐かしかったよ」
「向こうでのクリスマスって、お盆とか正月みたいな行事だもんね。そっか、それなら良かったね」
家同士のお付き合いがあり、櫂先生と梛さんとは小学生の頃からの幼馴染みである春妃先生も、この家に突然引き取られた梓の事情を、多少なりともご存知なのだろう。“姉”の様な顔で言った。
「しかし、雪凄いね。北海道みたい」
「すっごく寒かったです。帰国が遅れたのも、吹雪で飛行機が欠航になったからで」
「うわ大変。茉緒ちゃん、熱出さなかった?」
と、春妃先生にまで尋ねられてしまった。春妃先生は産休前まで私の主治医でもあったから、その質問も妥当なのだけれど。
「微熱はちょっと」
「だよねぇ。外国で体調崩すと、心細くない?」
「どうせ雪で出掛けられる天気じゃ無かったですし、寝てるだけならどこでも一緒なので」
この話題になると、梓が気まずそうな顔をするので、
「あ、そうだ、皆さんにもお土産があるんです」
と、無理矢理な感じで話題を変えた。
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