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一通りお土産を渡し終わった後、梓が
「茉緒、例の物は?」
と耳打ちして来た。“例の物”とは、以前瞳子さんと伯父様に約束したアレである。
「…明日の帰り際とかでいいんじゃないかな」
「でもきっと、すごく期待してるよ」
それは梓が、クリスマスにあげたマフラーをして来て自慢したからだと思うけど。
本音を言えばそのまま持って帰りたかったが、約束した以上、いつかは果たさなければならない。それなら、いい感じに酔いが回っている今ぐらいの方が、軽く笑い飛ばしてもらえそうな気もする。
仕方がないので腹を括り、既に少々皺くちゃになってしまった袋を取り出した。
「それから、あの、これ、伯父様と瞳子さんに」
「まだあるのかい?」
「…お目汚しでしかないのですが、その」
「茉緒が頑張って作ったんだよ」
「あら、もしかして」
お二人がラッピングの袋を開封する瞬間、思わず目を逸らしてしまった。
きっと喜んで下さるのはわかってる。ただ、その価値に見合うレベルでないこともわかっているので、物凄く居た堪れないだけだ。
伯父様には梓と色違いのマフラーを、瞳子さんにはアームウォーマーとレッグウォーマーのセットを編んでみた。どちらもひたすら真っ直ぐ編むだけの代物だが、それだけに編み目の不揃いもわかってしまう。何とか形にはなったものの、それを身に着けて下さいとは、口が裂けても言えない仕上がりだ。
「お、よくやった茉緒」
真っ先に労いの言葉をかけてくれたのは、衣鞠さんだ。衣鞠さんは、夏に一緒に組紐のワークショップに行ったので、私の実力を知っている。
「凄いわ。これ本当に茉緒ちゃんが編んだの?」
「…一応、はい」
「一目一目、私を思いながら編んでくれたのね?嬉しいわ!」
瞳子さんが、目を輝かせながら言った。
伯父様に至っては、…涙ぐんでる?
「…本当に、貰っていいのかい?」
「あ、はい。拙い出来ですが…」
「そんなことはない。とても嬉しいよ。ありがとう、一生大事にするよ」
と、大事そうに広げたマフラーを見つめながら言う。酔ってる時に渡したのは、失敗だったかもしれない。
「えー、何?茉緒ちゃんの手作り?」
事情をご存知でない春妃先生が無邪気に言い、瞳子さんのアームウォーマーを覗き込む。が、その編み目を見た瞬間、目が泳ぎ、私に向かってにっこり笑いかけた後、
「凄い!頑張ったね」
と、グッと親指を立ててくれた。出来栄えについて言及できない以上、労を労うしかないのだろう。
芙美さんは、梓に自慢げに見せられたマフラーの編み目を悲しそうに指でなぞっていたので、思うところは物凄くあるだろうけれど、敢えて何も言わないでいてくれた。洗濯に出された際にでも、内緒で直しておいてくれないだろうか。
でもとりあえず、最大のミッションは完遂した。これで晴れ晴れと新年を迎えられる。
願わくば、お二人がそれを身に着けて外出されない様、祈るばかりだ。
今年も皆揃って、穏やかに賑やかに歳が暮れる。最初は、彼氏の身内として気の張る間柄だった方達が、今では私にとっても、健康や平安を願う、大切な存在となっている。
除夜の鐘を聞きながら、いつまでもこうして仲良く一緒に歳を重ねて行けます様にと、年神様にお願いした。
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