Mr.Lonely black dog,Miss Tiny stray cat.

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「明けましておめでとうございます」  翌朝、お重いっぱいのお節を囲み、新年のご挨拶をした。  ご挨拶が済むと、瞳子さんから 「はい、茉緒ちゃん」 と、当然のようにお年玉を差し出される。 「あの…お気持ちは嬉しいんですけど、私もう二十三ですし…」 と辞退しようとしたら、 「学生のうちはいいの」 と、手の中に押し込まれた。それを皮切りに、櫂先生と梛さんからも、ぽち袋を渡された。 「ありがとうございます…」  出世するかわからないけど、お返しは出世払いということで、納めさせて頂く。  朝食後、 「茉緒ちゃん、こんなのあるんだけど、着てみない?」 と瞳子さんが取り出したのは、格子柄の着物だった。 「ウールだからあったかいし伸び縮みするし、袖も短いから動きやすいし、普段着感覚で着られるの。帯もね、簡単なお太鼓結びでいいから楽よ」  瞳子さんの感覚で普段着と言われても、一般的には充分贅沢品なんだろうな…。 「瞳子さんのじゃ、丈が合わないんじゃない?」  振袖を渋った私を知っている梓がそう言ってくれたが、 「あら、おばあちゃんのよ。演奏会の時のドレスもサイズぴったりだったでしょ。古いけどものは良いし、ちゃんとクリーニングしてあるから」 と、あっさり言い負かされる。何を言おうと、こうして用意してあるのだから、断るという選択肢はないのだろう。  梓も済まなそうに私を見るので、大丈夫だよ、と笑い掛け、お着物を受け取り、着替える為に和室へ行った。 「ごめん。瞳子さんが諦める訳なかった」  和室で二人になると、梓が頭を下げた。 「だから、梓の所為じゃないって。これも可愛いし、振袖より全然楽そうだから」 「瞳子さんが満足したら、脱いでいいからね」 「大丈夫だってば。ほら、着るの手伝って」  梓は渋々着付けてくれたが、瞳子さんの言う通り、暖かくて着心地が良かった。 「どう?」 と梓にも確認したが、 「可愛いよ。すごく似合う」 と、相変わらずの、手応えのない返事が返って来た。 「苦しくない?」 「瞳子さんが言った通り、あったかくてすごく楽」 「ならいいけど、疲れたら着替えて」 「わかった。じゃあ、みんな待ってるから戻ろう?」 「ほら可愛い」  居間に戻ると、勝ち誇った様に瞳子さんが言った。 「茉緒は何着たって可愛いよ」  梓も負けじと親バカ発言をする。  そして伯父様も、嬉しそうに私を見る。伯父様のお母様にあたられる方のお着物だから、懐かしいのかもしれない。 「着心地どう?」 「楽です。やっぱり着物着ると、お正月って感じしますね」 「でしょ〜。今日、実家帰るんでしょ?それ着たまま行くといいわ」 「え、でも」 「折角だもの、喜世さん達にも見せてあげなさいよ」 「ありがとうございます」  いつもお暇する際に瞳子さんはごねるので、一泊で帰ることを、こうもあっさり認められると、なんだか拍子抜けする。まさか去年みたいに、実家に帰ったら、瞳子さんと伯父様が先回りしてやいないだろうか。
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