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無事初詣も済ませ、夕方には実家に着いた。
母屋には、名古屋にお嫁に行った次女の芽衣子ちゃん一家も帰省しており、賑やかだった。
「まおちゃん、キモノだぁ」
芽衣子ちゃんの長女、おしゃまな朱理ちゃんが、私の着物姿に声を上げた。
「カワイイ!ママ、あたしも着たい!」
「だーからあんたは、暮れに聞いたでしょ?“着たい?”って。そしたらアイドルのナントカちゃんの衣装が着たいって言ったんじゃない」
と、正月早々親子喧嘩が始まった。
「朱理ちゃん、去年七五三だったんでしょ?」
「そう。それで正月も借りられるオプションもあったのに、誰かさんは安っぽいワンピースの方がいいって言ってね?」
「だってぇ、もえかちゃんとやくそくしたんだもん」
「うん、約束は大事。だから着物は諦めなさい」
「うー…」
朱理ちゃんが泣きそうになったので、着物を見せつけてしまった手前罪悪感を感じ、
「朱理ちゃんのお洋服も可愛いよ?」
と慰めると、
「…あずさくんも?」
と、涙の溜まった目で見上げる。
梓は空気を読んでくれ、
「うん、朱理ちゃんに似合ってる。可愛いよ」
と悩殺してくれた。
お陰でなんとか朱理ちゃんのご機嫌も直り、事無きを得た。
夕食後、子供達がゲームに夢中になっている時に、
「そのお着物、どうしたの?」
と、お母さんが尋ねた。
「遠宮のお家で着せてもらったの。梓の亡くなったお祖母さんの物なんだって」
「まあ、そう。通りで物が良いと思った」
…やっぱりそうだよね。手術着の下にシルクのタンクトップ着てる方だもの、瞳子さんの言う“普段着”の概念は、庶民とは違うよね。
「あちらのおうちには、お世話になりっぱなしね。皆さんお変わりない?」
「うん、相変わらずお元気。…実は、お年玉も貰っちゃってて」
「あらら。今度何かお送りしておかなくちゃ」
「大丈夫ですよ。茉緒もちゃんとお返ししたしね」
と、梓がとてもいい笑顔で言う。お返しってあの、実用的でない手芸品のことだろうか。
「そう?それならいいけど、宜しくお伝えしてね」
「うん」
アレを無かったことにしていいなら、お母さんから何か送ってもらう方が良かった。
まさかと思うが、お年賀にいらしたお客様に自慢されたりしていないだろうか。
梓は、私の実家でも、例のマフラーをお母さんや姉達に見せびらかしていた。
私の家庭科の成績を知っている彼女達は、出来そのものの感想は置いといて、その私があれを作り上げたことに、むしろ感慨深いものを感じている様だった。大して進歩も上達もしていないが、苦手なことを頑張ってやり抜いたことに対する健闘を讃える感じだろうか。
早く冬が終わって、ニット製品が仕舞われる日が来ることを願った。
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