Mr.Lonely black dog,Miss Tiny stray cat.

850/857
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/857ページ
 バタバタと賑やかな時間を過ごした後だと、古くて寒い我が家の空気が身に染みる。  夏休みに帰省して以来だが、なんだか急に古びた気がした。一昨年は、母屋の建て替えの間お母さん達が住んでいたけど、去年は、私が帰省したGWと夏休みの数日しか使っていない。家は住まなくなると傷むと聞くが、そのせいだろうか。  なんとなく、老犬を放置したみたいな気持ちになって、ちょっと悲しくなった。 「茉緒、帯解こうか?」 「あ、うん、ありがとう」  お着物は思ったよりも楽だったが、一日中着ているとさすがに疲れた。帯が緩められるとホッとした。 「瞳子さんの我儘聞いてくれてありがとう。疲れたでしょ」 「ううん、みんな褒めてくれたし喜んでくれたし、嬉しかったよ」 「似合ってたけど、明日は楽な格好でゆっくりしよう」 「…一応確認するけど、去年みたいなサプライズはないよね?」  去年のお正月、瞳子さんと梓が結託して、私を驚かせた前科がある。 「ないない。今年は福島の方へ行くって言ってたから」 「そうなんだ。菩提寺があるんだっけ?あちらにも親戚がいらっしゃるの?」 「伯父さんの従兄弟がいるよ。遠宮の本家になるのかな?古くて大きなお屋敷に住んでる」 「へえ〜、そうなんだ。梓も行ったことある?」 「じい様とばあ様の納骨に行った。再従兄弟?って言うんだっけ、も、いるよ」 「すごい。遠宮のお家って本当に“一族”なんだねぇ」 「穂坂一族には負けるよ」  確かにうちのご近所さんは“穂坂”姓が集中している。詳しい理由は知らないが、血縁という訳ではない。 「今度行こう。オレが行った時は夏と冬だったけど、菩提寺の近くに桜とか紅葉が綺麗なところがあるんだって」 「そうなんだ、行ってみたい。…ついでにお父さんのお墓参りも」 「うん。きっと喜ぶよ」  梓もさっき、先生の位牌がある母屋の仏壇に線香をあげてくれていた。  私は、今でこそ穂坂の家や遠宮のお家と繋がりが出来たけど、元々は家族も親戚も無く、自分が死んだらどこに埋葬されるのかなんて考えもしなかった。
/857ページ

最初のコメントを投稿しよう!