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バタバタと賑やかな時間を過ごした後だと、古くて寒い我が家の空気が身に染みる。
夏休みに帰省して以来だが、なんだか急に古びた気がした。一昨年は、母屋の建て替えの間お母さん達が住んでいたけど、去年は、私が帰省したGWと夏休みの数日しか使っていない。家は住まなくなると傷むと聞くが、そのせいだろうか。
なんとなく、老犬を放置したみたいな気持ちになって、ちょっと悲しくなった。
「茉緒、帯解こうか?」
「あ、うん、ありがとう」
お着物は思ったよりも楽だったが、一日中着ているとさすがに疲れた。帯が緩められるとホッとした。
「瞳子さんの我儘聞いてくれてありがとう。疲れたでしょ」
「ううん、みんな褒めてくれたし喜んでくれたし、嬉しかったよ」
「似合ってたけど、明日は楽な格好でゆっくりしよう」
「…一応確認するけど、去年みたいなサプライズはないよね?」
去年のお正月、瞳子さんと梓が結託して、私を驚かせた前科がある。
「ないない。今年は福島の方へ行くって言ってたから」
「そうなんだ。菩提寺があるんだっけ?あちらにも親戚がいらっしゃるの?」
「伯父さんの従兄弟がいるよ。遠宮の本家になるのかな?古くて大きなお屋敷に住んでる」
「へえ〜、そうなんだ。梓も行ったことある?」
「じい様とばあ様の納骨に行った。再従兄弟?って言うんだっけ、も、いるよ」
「すごい。遠宮のお家って本当に“一族”なんだねぇ」
「穂坂一族には負けるよ」
確かにうちのご近所さんは“穂坂”姓が集中している。詳しい理由は知らないが、血縁という訳ではない。
「今度行こう。オレが行った時は夏と冬だったけど、菩提寺の近くに桜とか紅葉が綺麗なところがあるんだって」
「そうなんだ、行ってみたい。…ついでにお父さんのお墓参りも」
「うん。きっと喜ぶよ」
梓もさっき、先生の位牌がある母屋の仏壇に線香をあげてくれていた。
私は、今でこそ穂坂の家や遠宮のお家と繋がりが出来たけど、元々は家族も親戚も無く、自分が死んだらどこに埋葬されるのかなんて考えもしなかった。
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