1ー1 恋の終わりと共に、力も枯れました

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1ー1 恋の終わりと共に、力も枯れました

 激しい雨が体を打ち付けている。すぐ横で打ち合う金属音と、激しく踏みならされる足音。全身を濡らす冷たい雨の他に生暖かい感覚に視線を落とせば、お腹の辺りから赤いものが流れていた。  震える手でそれに触れると、ぬるりとする。無意識に膝が折れ、裾が泥に浸かった。その間にも地面には血溜まりが出来ていく。血と共に大切な何かが下へと引っ張られて抜けていく感覚に、血が出ている事よりも恐怖を感じていた。  自分が自分ではなくなっていく感覚。止める事も抑える事も出来ないまま、今まさに最後のそれが抜け切ろうとした時、声が聞こえた。 「エーリカ! エーリカ・ルートアメジスト!」  自分の名を呼ぶ誰かの悲痛な声が後ろから聞こえる。 ーー全てを忘れてしまいたい。この姿も、この名も、この記憶も。  そうすればあの方の事を、あの方と笑い合うあの人の事を、諦めてあげられるのに。 「エーリカ!」 「……クラウス、さま?」  ここにはいないはずの声の主を思い、こんな状況にも関わらず笑みが漏れていた。 ーー都合の良い幻聴ね。あなたが私の為に、そんな声を出すはずがないもの。  後ろを振り返ると、兵士達に止められながらもなりふり構わずにこちらへ来ようとしているクラウスの姿が見えた。 ーー最後になんて幸せな幻覚なの。  恋焦がれ続けたこの国の第一王子。ふっと視線を落とすと、濡れて濃くなった自分のピンクブロンドの髪が視界の端に映った。そのまま揺らぐ体を止める事も出来ずに、意識はそこで途絶えた。
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