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Lv.10 拠点 仰天
「あれ?ここ、空き地じゃなかったけ?」
数日前まで空き地だった場所に、いつの間にか二階建ての家が建っていた。
そんなに大きくは無いが、ホワイトとウッドの外壁に片流れの屋根のスタイリッシュな一戸建てだ。
特に疑問を持つ事も無く、礼治はいつもと同じようにバイトへと向かう。
今日は金曜日、美亜と約束したホラー克服dayである。
何をするかはわからないが、今のままではホラー小説家として活動できない。
数時間後、美亜もバイトに出勤し今日は何をする予定なのか尋ねてみた。
「今日は一緒にホラー映画を見ましょう!」
「ホラー映画・・・ちなみに、どんな内容ですか?」
美亜はドヤ顔でDVDを取り出した。
取り出したのは、洋画で『悪霊の臓物パート3』というタイトルだった。
「この作品を観ましょう!」
「なかなか、グロそうなタイトルですね・・・でも、なんでパート1では無くパート3なんですか?」
「この作品は、怖くないホラーで有名らしくホラー慣れするにはうってつけかと思いました!」
仕事の合間にストーリーを確認すると・・・主人公は禁じられた書物によって復活した悪霊に家族と左腕を奪われ、復讐する為に悪霊狩りをするという内容。
パート1、パート2を経て悪霊狩りとして熟練した主人公は安心して見ていられるという理由と、かなり前の作品なので悪霊の特殊メイクも最近の技術と比べると流石に見劣りするのが『怖くない』と評される理由のようだ。
これなら、ホラー耐性をつける最初の一歩としては申し分無さそうだと、礼治も安心していた。
仕事を終えた二人は、店を出る。当然、アパートへ向かうのだと思って歩を進める礼治に美亜が声を掛けた。
「先生、こっちですよ!」
何か買い物でもするのだろうか?そう思って美亜の後についていくと、美亜は出勤前に通りかかった新築の住宅前で足を止め、当然のように鍵を取り出したドアを開ける。
「え!?この家、皇さんの家ですか!?」
驚きの声をあげる礼治の方を振り向き、美亜はまたしてもドヤ顔を披露する。
「ふっふっふっ、ここを拠点としてホラー克服計画を実施するのです!」
普通、一週間も経ってないのに家って建つものなのか?
俺の為にこんなことまでするなんて、どういうつもりなんだ?
混乱状態のまま、礼治は家に入る。
観葉植物の置かれた玄関、リビングには二人掛けのグレーのソファーに65V型の大きな液晶テレビ、カーテン付きの大きな窓、要所に小さな窓、照明はクラックガラスの六灯シーリングライト・・・壁はシンプルな白、カフェ風のお洒落なキッチン、デカイ冷蔵庫、食事に使うテーブルにチェアーが二脚。
しかも、テーブルにはラップのかかった料理が用意されている。
サラダ、油揚げの味噌汁、ご飯、豚の生姜焼き・・・なんとも家庭的だ。
「とりあえず、ご飯にしましょう!」
言われるがまま、席に座ると美亜は料理を電子レンジで温め直す。
色々と疑問はあるが、まずは温まった料理を食べる事にした。
「う!?美味い!」
柔らかい肉は噛めば噛むほど旨味が溢れだし、サラダの野菜はドレッシングがいらないくらい甘味がある!
味噌汁はダシが効いているが、油揚げからも旨味が出ており、どれも今までに食べたことの無い別次元の料理だった。
「美味しいですか?ウチのシェフが腕によりをかけて作ってくれたんですよ」
恐らく、高級食材が使われているのだろうが怖くて聞けなかった。
食事を終え、礼治は食器を台所に運び洗おうとする。
「先生、洗い物は私がやりますよ!」
「いや、流石に洗い物くらいはやらせて貰わないと悪いですよ。ここは、任せて下さい」
「わかりました。では、私はお風呂の準備をしてきますね」
なんだか、新婚生活みたいだな・・・しかし、こんな感じで過ごしていたら人としてダメになりそうな気がする。
早く、ホラーを克服しないと皇さんにも家族の方にも悪い・・・ていうか、ご家族は大丈夫なのだろうか?
娘がいきなり新築建てて、訳のわからない男を連れ込んでるなんて知っているのか?
もし、知らなかったら・・・で、知られてしまったらどうなるんだ?
「先生、お風呂の準備できましたよー!」
考え事をしている最中、美亜に呼ばれて礼治はビクッと背中を震わせた。
「りょ、了解です。お先に失礼しても?」
「どうぞどうぞ!」
バスルームも洒落たつくりだ・・・石造り風で浴槽もアパートの2倍は広い。
しかも、ジャグジー・・・入るのが躊躇われるのでシャワーにしよう。
俺が入った湯船に皇さんが入るというのも、なんだかイケナイ気がする。
シャワーから出るお湯が、霧みたいになって出てくるんだが?
めちゃくちゃ気持ちいい・・・いかん、こんなのに慣れてしまったら普通のシャワー使えなくなる。
脱衣室には、シルクのパジャマとバスローブがある。
これを着ろと?
俺の着ていた服は・・・洗濯機で洗われている。
バスローブは無いな、パジャマにしよう。
薄いグレーのパジャマは、肌触りも良く着ている気がしないくらい軽い。
「お湯加減は大丈夫でしたか?」
「あ、いや、はい・・・皇さんも、どうぞ」
皇さんが風呂に入っている間は、何とも落ち着かない気持ちだった。
風呂からあがった皇さんは、薄いブルーのシルクのパジャマで現れた。
風呂あがりで、少し火照ったような肌はいつもより色っぽく感じる。
いやいや、俺は何を考えてるんだ?
相手はまだ子供だぞ!妙な気を起こさないように、さっさと映画を見よう。
「先生、飲み物は何が良いですか?」
「何でも大丈夫です!さぁ、ホラー映画を見ましょう!」
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