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⭐Lv.12 悪霊の臓物 その2
基礎となる対悪霊の知識を身につけた俺に、ジェフリーは酒を飲みながら言った。
「体力、筋力は申し分ねぇが・・・その腕をどうにかしねぇとな」
そう言いながら、ジェフリーは鍵のかかった箱を開けた。
中には、ぐにぐにしたスライム状の赤黒い気持ち悪い物体が蠢いている。
「師匠、何ですかこれは!?気持ち悪い」
赤黒い物体は、俺の言葉に反応したようにトゲトゲに形状が変化した。
「失礼な事を言うんじゃねぇ!こいつは、これからお前の腕変わりになってくれるスライムちゃんだ。仲良くしねぇと、話にならねぇぞ。それから・・・」
「それから?」
「師匠ってのは、やめろ。むず痒くてしかたねぇ」
俺から見ると、まんざらでも無いように見えたので師匠呼びは続ける事にした。
スライムちゃんと仲良くなるのには、時間がかかった。
様々なコミュニケーションを取り、好物の鶏肉を与えながら、ようやくスライムちゃんは俺の無くなった左腕にとりついてくれた。
スライムちゃんは様々な形状に変化してくれるので、慣れてしまえば元の腕より使い勝手が良い。
「ねぇ、ジェフリーさん。スライムちゃんって女の子なの?」
「おぅ、それがどうした?」
「・・・別にぃ」
「アリス、焼きもちやくなよ。スライムちゃんと仲良くしねぇと悪霊にブッ殺されるんだ。それじゃ、話にならねぇだろ?」
ツギハギだらけのウサゾンビのぬいぐるみに魂が移ってしまったアリスがソッポを向く。
アリスには対悪霊魔法である聖霊術の才能があり、ぬいぐるみの姿でも使う事ができた。
ジェフリーは、そんなアリスをじっと見つめて溜め息を吐く。
頼もしいが、まだまだ子供なので色々と心配だな。
「お前らを鍛えるのに、だいぶ時間を使っちまったが・・・まず、アリスに本を渡した女学生に探りを入れるとするか」
ジェフリーの話を聞き、アリスは驚きの声をあげた。
「マリアちゃんに?」
「マリア・・・ねぇ。名前に悪意を感じるな。恐らくソイツの仲間、もしくはソイツ自身が教会から書物を奪った異教徒だ。ここからは実戦だ・・・いいか、足手まといを助けながら戦えるほど悪霊は甘くねぇ。助けて貰えると思うなよ?もし、俺が足引っ張ったら見捨てるつもりで戦え。無駄死にだけはするな。わかったか?」
俺とアリスは、無言で頷いた。
そして、マリアはやはり異教徒で学校に悪霊を呼び出し沢山の人を犠牲にし逃げ去った。
「もはや、三人とスライムだけじゃ話にならねぇ」
ジェフリーは音信不通の聖霊術使いたちを探しながら悪霊狩りをすると言った。
悪霊と異教徒も邪魔になる聖霊術使いの末裔を狙ってくるかも知れないからだ。
時には悪霊たちに先を越され、聖霊術使いたちが殺される事もあった。
非協力的な聖霊術使いたちを説得したり、時には敵対しながら徐々に一枚岩になっていった。
そして・・・俺は、情熱的な印象を与える赤い髪の聖霊術使い『イリア』に恋をした。
思いを告げること無く、最後の戦いに向かうつもりだったが・・・最終対決前夜、イリアが俺の寝室にやってきた。
「最後になるかも知れないから、思いを告げにきた」
男勝りな彼女に、女の顔で見つめられたら呆気なく俺の理性は崩壊し・・・朝まで愛し合った。
悪霊たちが巣くう巨城が最終決戦の舞台となる。
入り組んだつくりをした巨城はまるで迷宮で、入って間も無く狡猾な罠にハマり戦力は分散されアリスと離ればなれとなった。
激しい戦いの中、悪霊と異教徒も聖霊術使いたちも、互いに倒れ命を落としていった。
「バカな・・・数では勝っていた我々が、追い詰められただと!?」
妹の親友・・・の、フリをしていたマリアが後退りしながらこちらを睨む。
「観念しな、ロリババァ。そんな見た目で騙されやしねぇぞ?ノルデーモ封印前からの従者なら、俺よりよっぽど歳上だ」
「黙れ、醜い人間め!ノルデーモ様のところには行かせん!やれ、悪霊騎士ガスターテ!」
首無し騎士のガスターテは強く、手練れの聖霊術使いたちやイリアも倒れ、万事休すのピンチに陥った。
イリアを守る為、不用意に敵の前に立った俺を庇いジェフリーが重傷を負った。
ガスターテの剣がジェフリーの腹を貫いた。が、ジェフリーはガスターテの腕を掴み全生命力を込めた聖霊術でガスターテを吹き飛ばす!
「師匠、足を引っ張るヤツは見捨てるって・・・言ってたじゃないですか!どうして、俺なんかの為に!」
「あ?お前なら、ノルデーモを封印できると思ったから、助けただけだ。だから、これは無駄死にじゃない・・・それより、良く聞け・・・アリスの人形はおかしい。そもそも、いくら聖霊力が強い魂だからといってただのぬいぐるみに魂が移るなんて事はできねぇらしい・・・あらかじめ、用意してなければ・・・ぐはぁ!」
血を吐き、虚ろな瞳でジェフリーは俺を見つめる。
「師匠、師匠!死なないで下さい!」
「師匠・・・って、呼ぶなって・・・言ったが・・・存外、悪くなかった・・・」
「師匠、師匠!」
「まだ、戦いは終わってねぇ・・・こんなところで涙ボロボロじゃ・・・話にならねぇ・・・ぞ」
息を引き取ったジェフリーを抱き締め、俺は自分の気持ちを素直に言った。
「酒臭くて、口は悪いけど、強いだけじゃなく本当は優しくて、いつも気遣ってくれて・・・父親のように尊敬してました。さよなら、師匠・・・ノルデーモは必ず封印します」
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