⭐Lv.13 悪霊の臓物 その3

1/1
前へ
/140ページ
次へ

⭐Lv.13 悪霊の臓物 その3

師匠の死を悼みながら、負傷したイリアと仲間たちをその場に残してマリアを追う・・・しばらくして、離ればなれになっていたアリスたちと合流した。 「良かった、お兄ちゃんが無事で・・・ジェフリーやイリアさんは?」 「・・・師匠は名誉の戦死を遂げたよ。イリアと他の仲間たちは、戦える状態じゃないから置いてきた」 「ジェフリー・・・」 師匠の死を悲しんでいるように見えるが・・・さっきの師匠の言葉が引っ掛かり、アリスに違和感を感じてしまう。 それより、今はノルデーモを封印する事を考えよう。 アリスと仲間たちと共にたどり着いた王の間には、玉座に座って顎に手を当て脚を組む、ふてぶてしい笑みを浮かべたアリスの身体を乗っ取ったノルデーモがいた。 「私の身体、返して貰うわよ!」 「ふん・・・誰がこの病弱な身体をここまで完璧に近い状態にしたと思っている?何人もの命を注ぎ、細胞、臓器の欠陥を治してやったのだ・・・感謝するが良い、あと一人でこの身体は未来永劫、我が肉体として不変不滅の支配者となるのだ」 ノルデーモの傍らで、マリアがこちらを指差して笑う。 「あはははは!世界はノルデーモ様と、私達のモノになるのよ!」 「マリアちゃん、逃げて!」 「は?」 アリスの言葉が届くより先に、ノルデーモはマリアの胸を貫いて、えぐり出した心臓にかじりついた。 「・・・私、ノルデーモ様・・・」 小さな声を絞り出し、絶命したマリアが床に倒れた。 「人間が、我々の世界で生きていられる訳があるまい。悪霊の世界に人間は不必要・・・例え、崇拝者だったとしとも、な」 完全体となったノルデーモの力は強大で、手練れの聖霊術使いとアリスの聖霊術でも与えられるダメージは僅かだった。 次々と倒れていく仲間たち・・・アリスは俺に聖霊力を注ぎ、肉体強化を施す。 「完全体となったノルデーモの額にある眼をスライムちゃんで潰せば、悪霊の力が噴出し封印できるはず!」 仲間たちが命をかけて作ってくれた一瞬の隙を突いて、俺はスライムちゃんを槍のように尖らせノルデーモの額に突き刺した! 「バカな!?また、私が負けるのか?いつかまた甦り、今度こそ世界を暗黒に・・・」 「もう、二度とお前が復活する事は無い。そんなこともわからないんじゃ・・・話にならないな!」 ノルデーモを封印した書物は、二度と陽の目を見る事の無い海中深くに沈められた。 戦いは終わり、僅かに額に傷がついたがアリスの身体も取り戻せた。 俺は、戻ってきたアリスと抱き合い戦いが終わった事に安堵しながら仲間たちの死を悼んだ。 日常生活の中、俺は生き残った知識人の聖霊術使いにウサゾンビのぬいぐるみを調べてもらった。 「この、ぬいぐるみ・・・内部に高度な聖霊術式が施されていますね。魂が移るように、あらかじめ用意されていたんですか?」 その話を聞き、俺は全身から血の気が引いていくのを感じ、急いで病院へと向かう。 イリアの病室に入ろうとするアリスを大声で呼び止めた。 「アリス!」 「お兄ちゃん・・・病院で大きな声を出しちゃダメよ?」 アリスの顔は笑っていたが、目は笑っていない。 「・・・話したい事がある。一緒に来てくれ」 アリスを連れ、俺は病院近くの森を歩く。 「アリス、お前がノルデーモの封印を解くように仕向けたのか?」 「しらばっくれても、無駄みたいね。お兄ちゃん・・・いや、ジャックよ。私はノルデーモを封印したシスターの転生なの」 アリスが曇り空を見上げると、ポツポツと雨が降りだした。 「命をかけて、ノルデーモを封印したシスター・・・そう言えば聞こえは良いけど、実際は私の命を利用して封印を成功させた。私は、聖霊術使いたちに殺されたのよ!」 雨に濡れた髪をかきあげ、アリスは俺を見つめる。 「前世の記憶を持って転生したのに、新しい身体は病弱で、いつ死んでもおかしくなかった。これが神の仕打ちなら私は到底、認める事はできなかった」 「・・・だから、ノルデーモを利用して身体を治したって言うのか?何人もの命を犠牲にして!」 「愛するジャック・・・あなたにはわからない。私の絶望が、憎しみが、怒りが!」 「アリス、イリアに何をするつもりだった?」 「ジャック、あなたは私と共に生きるのよ。私を愛し、私を癒すの。その為に、イリアは邪魔でしょ?」 アリスの話を聞き、深い憎しみと俺に対する異常な愛情を理解した。 「わかった・・・一緒に行こう。これからは、ずっと一緒だ」 「あぁ、ジャック・・・私はあなたと生きたかった。わかってくれたのね」 俺はアリスを抱き締め・・・左腕でアリスと自分の心臓を貫いた。 「じゃ、ジャック・・・」 「アリス・・・一緒に償おう」 ゆっくり目を閉じる・・・人生のエンドロールに記憶の走馬灯が流れる。 どこからか、優しい声が響く。 「ジャック、ダメだよ。君はもう、一人じゃないんだ。君だけの命じゃないんだ」 「どういう意味だ・・・あんた、誰だ?」 「そんなこともわからないんじゃ、話にならないね」 絶命したアリスの傍らで、俺は目を覚ます。 「左腕が・・・無い。スライムちゃん、どこに?」 どくん、どくん 貫かれたハズのジャックの心臓が、返事をするように高鳴る。 同じく、病室で眠るイリアのお腹の中で小さな小さな生命が小さな、小さな音を鳴らす。 『悪霊の臓物 パート3』 END
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加