Lv.132 決戦は金曜日 その3

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Lv.132 決戦は金曜日 その3

中国拳法には『発勁』と呼ばれる力の発し方を呼ぶ技術がある。 誤解されがちだが、超能力じみたモノでは無く『伸筋力』『張力』『重心力』等を指し事を意味する。 中嶋 広恵18歳は若くして、その極意を体得しつつある天才少女だった。 その研ぎ澄まされた一撃は本来、物理的攻撃に対しダメージをほとんど受けない霊体にさえも有効打となった。 「嘘でしょ・・・なんで、霊体のワタクシが!?デタラメ過ぎるでしょ!」 「さっき、麗美さんに触れて『いける』と思ったけど、やっぱり通ったわね。私は皆とは考え方が違う。力ずくでも、呪いを解かせるつもりでいた。あなたが私にかけた呪いは、な内容だから」 中嶋さんにとって、お菓子作りはそれほど大切な事なのか・・・そう思いながら、礼治は中嶋を止めに入る。 「まって、中嶋さん!暴力で解決しても遺恨が残ってしまえば意味が無い!」 「そうだぜ、中嶋ちゃん!はやまるな!」 続いて晶も止めに入った。 礼治を睨み付ける中嶋に、美亜はこれまでに無い不安感を感じており言葉が出ない。 香住は「ざまぁ」と内心ほくそ笑んでおり、野中も「やっちゃえ、中嶋」と心の中ではガッツポーズをとっていた。 麗美は複雑な心境だったが、失敬な態度をとってきた花音がぶちのめされ、ちょっと心がスッとしていた。 「花音さん、僕らはゲームクリアで呪いが解けると思ってました。だが、もしあなたの意思で呪いを解けるなら呪いを解いて欲しい。お互いに歩み寄れる、平和的解決方法はありませんか?」 「・・・ゲームをクリアすれば、守護エネルギーは完全回復するわ。でも、ワタクシは消えない!行き場の無い怒りと憎しみが渦を巻き続ける!あなたたち、誰かの身体を奪って甦るまでは!」 そう言い残し、花音はモニターからゲームの世界へと逃げて行ってしまった。 暫くの沈黙・・・礼治は中嶋に声を掛ける。 「中嶋さん、僕は確かに言いましたよね?まずは話し合いからだって」 「それは呪いをかけた理由を知るまでは、という話でしたよね?身勝手な内容でしたし、あの場で成敗するのがベストだと判断したまでです。何か、問題でも?」 「だからと言って、いきなり腹パンは・・・」 「まぁ、待て待て!礼治も中嶋ちゃんもエキサイトするなって!一旦、落ち着こうぜ?」 中嶋は止めに入った晶に目を向ける。 「晶さん、花音は野中さんと私を狙うと言ってましたよね?あの言いぶりからして、2回目の呪いを受けたら意識を奪われる可能性が高いんですよ?分かってますか?」 晶は何も言い返す事ができずに、野中の方を見る。 「ちょっとー!私があんな小娘に遅れを取るとか思ってるの!?心配しすぎよ、ダーリン」 おちゃらける野中を見て、晶の表情が少し柔らかくなる。 「まったく・・・美樹には敵わないぜ」 「何にせよ、花音はウチらと和解するつもりは無さそうやったから・・・残念やけど、ゲームをクリアして呪いが解けたら何らかの方法で封印するしかないんやないかな・・・ほんまは、一緒に成仏したかったけど」 麗美の声は聞こえてないが、美亜は花音を哀れに思っていた。 「花音さんの怒りと憎しみを取り除く手立ては無いのでしょうか?」 礼治は花音の言葉を思い出しながら、考え込む。 「話がズレますが、美亜さん薬が変わりましたよね?」 「え?はい、強くなったみたいで飲むと眠くなるのは先生もご存じですよね?」 「唐突ですが、一回分貸して貰えますか?」 「はぁ、構いませんが・・・」 礼治の意味不明な行動を見て、中嶋は呆れ返ってシアタールームから出て行ってしまった。 「あ、中嶋ちゃん!?おい、礼治!この雰囲気で来週もやるつもりかよ?」 「あぁ、勿論続行だ。だが、その前にどうにも気になってる事があって確かめておきたい。晶も協力してくれ。それと、美亜さんのお父さん・・・吉太郎さんと話がしたいんですが時間を作れませんか?」 「えぇ!?何が何だかわかりませんよ!?」 「・・・確信が無いので、詳しくは言えませんがお願いします!」 深々と頭を下げる礼治を見て、美亜は何か言えない理由があるのだと察した。 「うんと言うかわかりませんが、伺っておきますね」 そのまま解散し、礼治は香住と晶と共に帰り道を歩く。 「ねぇ、礼治君・・・なんで突然、美亜ちゃんのお父さんに会うの?正直、それどころじゃないよ。中嶋ちゃん、明らかに様子おかしいし」 「ずっと引っ掛かってた事があって今日、花音ね話を聞いて、ますます確認が必要だと感じた事があるんです。花音本人も戸惑っているくらいの怒りと憎しみに関係している・・・かも知れません」 「それって、俺たちにも言えないのか?」 「いや、言えなかったのは美亜さんだけだ。俺は、美亜さんと花音が同じ脳腫瘍で、同じ主治医で、美亜さんの様子が最近おかしいのがどうにも引っ掛かってるんだ」 「確かに、偶然にしては出来すぎてるかもな。で、俺に手伝って欲しい事ってなんだ?」 「実は、単にビビってるだけなんだ。一緒に来てくれたら心強い」 「そいつぁ、理由としては充分だな!任せとけ!」 そんな二人を見て、香住は苦笑いを浮かべる。 「本当に、あんたらは昔から変わらないねぇ~暑苦しい友情だこと」 一方、その頃・・・寝室に入ってしまった中嶋に美亜と野中がドアごしに声を掛けていた。 「お~い、中嶋ぁ~なんか、根詰めてるみたいだけど何かあるなら話聞くよ~」 「私は、先生の甘い考えに賛同できなかっただけです」 野中は手にしているソフトケースから顔を出してる麗美を見る。 「なんや知らんけど、ウチらが知らんだけで中嶋ちゃんにはお菓子作り以外にも呪いかかっとるんやないか?ウチはシンプルに成仏でけへんだけやけど、だいたい2つくらい重いのあるんやろ?」 「私は、仕事と歌でリーダーは小説とエッチですね」 「礼治君、エッチでけへんの!?めっちゃ重いやん!とりあえず、今は一人にしといた方がえぇんちゃうかな?」 「かも、ですね。美亜ちゃん、私と麗美さんも寝るわ」 「はい。おやすみなさい。麗美さんにも、宜しくお伝え下さい」 美亜は再び、中嶋に声を掛ける。 「中嶋さんは・・・先生に憧れてるんですよね?」 「・・・過去形です。憧れてました。なんで、そんなことを?」 「そうですか・・・何でもありません。おやすみなさい」 中嶋は枕に顔を埋め、ベッドシーツを強く握りしめて呟いた。 「私にかけられた呪いは・・・恋愛感情の撹乱・・・香住さんへの思いは偽物で、本当は・・・だから、絶対に許せない。人の心を弄んだ罪、必ず償わせる」 中嶋にかけられた、もう1つの呪い・・・それは『本当の恋ができない』呪いだった。
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