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Lv.134 決戦は金曜日 その5
金曜日が訪れた。
礼治は吉太郎から受け取った書類を持って、何も映っていない大画面モニターを眺めていた。
「どうしたんですか、先生?」
そんな礼治に美亜は少し心配そうに尋ねた。
「いえ、ここまで来るのが長かったようで、あっという間だったな・・・なんて、思ってました」
「そうですね・・・でも、私は結末が見えなくて、どうすれば良いのか、自分に何ができるかさえ分かりません」
「美亜さんが側にいてくれるだけで、俺は勇気が沸いてきます。少しだけ、強くもなれます。いつも、何の捻りも無い言葉しか送れませんが・・・ありがとうございます」
二人がそんな話をしている最中、香住、晶、野中と麗美、そして少しうつ向いて中嶋がシアタールームにやって来た。
「皆さん、お疲れ様です。今回、花音と遭遇したら彼女に話したい事があるので僕に時間を下さい」
「話したい事って・・・言うても、花音のヤツ幽霊になってからおかしくなっとるから聞く耳持たんとちゃうかなぁ」
「私は、隙あらば力ずくで呪いを解く方針を変えるつもりはありません」
「了解!私は、リーダーに任せるよ!」
麗美は中嶋に近い考えだったが、野中はキッパリと礼治の意見に同意した。
「美樹ちゃんは、えらい礼治君を信頼しとるんやなぁ」
「はい、何だかんだでリーダーは頼りになるんですよ!こう見えても。な、中嶋?」
「・・・なんで、そこで私に振るんですか?」
「深い意味は無いよ!ただ、キャンプの時みたいに怖くても楽しく行きたいなって思っただけ!」
「僕は頼りないとは思いますが・・・皆の期待に答える努力は惜しみません。今回は、僕に任せて下さい」
「お~なんや、今日の礼治君はごっつ覇気感じるわ!ほな、花音の事は任せるで!攻略はウチに任せとき!」
セーブポイントからゲームを再会し、次のエリアでやることを麗美が説明する。
「次のエリアには、三匹目の餓者『鳥型』がおる。鳥型に捕まると、上空から地面に叩きつけられてゲームオーバーや。開けた場所を移動すると、空中から突然襲いかかってくるさかい、できるだけ木の下を移動するのがポイントやで!」
「蛇型や人型みたいに、近づいてくると音は聞こえるんですかぁ?」
「お、流石ゲーム好き声優やな。そこもポイントや!バサバサっちゅう羽ばたく音が入ったら、引き返すのがセオリーやな。スピードも早いから、強引に前進しても捕まるのがオチやで!」
「なるほど、なかなか厄介な餓者ですね」
「この鳥型は倒せば、次のセーブポイントに行けるで!」
「逃げきるのでは無く、倒すんですか?」
「意外そうな顔しとるやん、礼治君。エリア内で入手したアイテムを組み合わせて弓矢を作り、命中させた後、火で焼き殺せるんやで」
「逃げてばかりは性に合わないので、そういうゲーム展開はありがたいです」
「中嶋ちゃんは、見た目とのギャップがほんまにヤバいな。ほな、いきましょか!」
礼治たちはアイテムを集めながら順調にゲームを進めていた。
「美樹ちゃん、そこのキノコも後で使えるから採っといてなぁ~」
「はーい!」
バサバサバサバサと、羽ばたく音が画面に響く!
キノコを採ろうとした野中が、突如現れた鳥型餓者に捕まってしまった!
「美樹!」
画面を見ていた晶は、思わず野中の名を叫ぶ!
「な、なんやて!?このエリア内は飛行領域や無いやろ!」
青ざめる麗美に中嶋は問いかける。
「助ける方法は!?」
麗美が答えるより先に野中が溜め息混じりに言った。
「これ、詰みですよね?なら、いっちょ足掻いてやりますか!焼き鳥にしてやんよぉ!」
野中は落とされる前にガスバーナーを鳥型餓者に向けて火を放つ!
「グギャアァァァァァ!」
勢い良く燃える鳥型餓者は、悲鳴を上げて野中と共に落下していく!
「ねぇ!火が苦手だった私が、火でやっつけるとか何かエモくない?」
そう言い残し、地面に叩きつけられた野中の画面にはgame overの文字が表示された。
それと同時に、野中が床に倒れ込む!
礼治たちはゲームを中断して野中に駆け寄る。
「おい、美樹!しっかりしろ、美樹・・・美樹!」
野中を抱きかかえ、晶はひたすら呼び掛けるが・・・反応は無い。
美亜は速やかに野中の状態を確認する。
「脈拍、呼吸、心音には異常ないみたいです」
「呪いの重ね掛けによる、昏睡状態・・・か」
晶は野中を抱き締め、優しく呼び掛ける。
「美樹、待ってろよ・・・すぐに起こしてやるからな」
中嶋は歯を食い縛り、拳を握る。
「やっぱり、あの時・・・一撃で潰しておくべきだった」
そんな中嶋の言葉を聞き、晶は首を左右に振る。
「それやっちゃったら、結局は後で中嶋ちゃん自身が自己嫌悪に際悩まされてたと思うぜ?俺、結構ちゃんと中嶋ちゃんの事は見てたから。それくらいわかるよ」
「・・・じゃあ、どうするんですか?私は!野中さんを助けられるなら、もう迷いません!」
「花音だってバカじゃない。もう、こっち側にひょこひょこ出てきやしないだろ。大丈夫、中嶋ちゃん!礼治がどうにかしてくれるからさ!」
こんな状況でも、晶は礼治を信頼して笑顔を見せた。
中嶋は、いつものように呆れた様子で溜め息を吐く。
「バカ友情、バカ男ですね・・・やれやれです」
憑き物が取れたように表情が柔らかくなった中嶋の肩に、香住がそっと手を添える。
「バカだけど、礼治君を信じる晶と野中を信じてあげよう?」
「香住さん・・・わかりました。手出しはしません」
そう言って、中嶋は礼治を見つめる。
「先生、私も・・・先生を信じます。だから、野中さんを必ず救って下さい」
「期待に応えられるよう、努めます!麗美さん、ゲームを再開してセーブポイントへ向かいましょう!」
この状況でも平常心をキープできている礼治を見て、麗美も礼治に一目置いた。
「流石、リーダーやな!ほな、サクサクいこか!」
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