Lv.135 決戦は金曜日 その6

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Lv.135 決戦は金曜日 その6

晶は野中を寝室まで運び、美亜と香住が見守る中ゲームを再開する。 野中の捨て身の攻撃により、鳥型餓者は出現しなくなり必要なアイテムを回収して三人は次なるセーブポイントに到着した。 「この山小屋もそうやけど、セーブポイントに餓者は入ってこれんようになっとる。とはいえ、花音のヤツが餓者の出現ポイントを広げてたから油断はでけへんけどな」 麗美が二人にそう伝えると、どこからかスローテンポな拍手が聞こえてきた。 山小屋の二階から、花音が姿を見せ礼治たちを見下ろした。 「無事に第2セーブポイントまでたどり着けましたね。お見事です」 「おんどりゃあ!イキッてられるんも今のウチやからな!」 花音を睨んで威嚇する麗美の前に、礼治が塞ぐように立つ。 「花音、少し僕と話をしないか?」 「まぁ、殿方とお話しするのは久しぶりですわ。ゲーム内なら、そこの野蛮人からも攻撃されませんし宜しくてよ」 花音な挑発的な笑みを浮かべて中嶋を一瞥し、階段を下りてきた。 「花音、君の中に渦巻いている怒りと憎しみの正体を知りたくないか?」 花音は礼治を暫く見つめ、鼻で笑った。 「貴方に、私の何がわかるというの?」 「君の事は、正直良くは知らないが・・・君の身に起きた事は君よりは知っているよ」 ちょうど寝室から戻ってきた晶は、何も言わずモニターを見つめる。 「・・・興味深いですわ。お話しをお伺い致しましょう」 「結論から言うと、君はある人物に殺害された。だから、通常であれば成仏できる病死でも成仏する事ができずに自分をモデルに作られたキャラクターを依代にして現世に留まる事ができた・・・と、僕は考えてます」 礼治の話を聞き、晶以外のその場にいる全員が驚きを隠しきれなかった。 「な、なんやて!?花音の死因は脳腫瘍が原因やないんか!?」 「花音は、ある人物の復讐の為ににされていました。この薬に見覚えあるよね?」 礼治はポケットから、美亜の薬を取り出した。 「・・・現実の世界のモノはゲーム内からは確認できませんわ。それを見に出たら、どうせ野蛮人に攻撃させるおつもりでしょう?」 「私は先生を信じると誓いました。手は出しません」 「信用するとでも?全部嘘に決まってますわ!」 中嶋は「やれやれ」と呟き・・・山小屋から外に出た。 「な、中嶋さん!?」 「中嶋ちゃん、何してんねん!餓者に襲われてまうやろ!?」 中嶋は何も言わず、そのまま真っ直ぐ進んでいき遭遇した人型の餓者に胸を貫かれgame overになってしまった。 「これで、怖くないですよ。花音、私は先生を心から尊敬して信頼してる。あなたを裏切ったり、騙したりしないよ・・・先生は」 にっこり笑い、中嶋は二度目の呪いを受けて床に倒れ込んだ。 「中嶋ちゃん!」 すぐに香住が中嶋からゴーグルとグローブを外し、晶がリクライニングシートに運ぶ。 寝息をたてている中嶋の手を握り、香住は優しく声をかける。 「もう、それはヒロインの役じゃないの・・・敵わないなぁ」 美亜は中嶋を見つめながら、祈るように手を組んだ。 中嶋の行動に驚きながらも、礼治は冷静に話を進めて行く。 「・・・こちらに来てもらえるますか?」 「野蛮人は、どれだけ貴方を信頼しているの?ワタクシには理解できないわ・・・麗美先生と同じで両親も早く無くし、親戚はたらい回し、挙げ句に病気になって人なんか、ほとんど誰も信用できなかった」 「花音・・・ウチの事も信用でけへんか?礼治君は、あんたを騙すような人やない!」 麗美の声が少しだけ花音に届いたのか、花音はモニターから姿を現し礼治の手にした薬を受け取る。 「これは・・・ワタクシの薬と同じですわ」 「美亜さんも脳腫瘍を患っています。そして、美亜さんと花音・・・君の主治医は同一人物だ。美亜さんの診察をして、間も無く君の薬が切り替わったのは調べがついている」 礼治は吉太郎が部下たちに調べさせた書類を取り出し、花音に見せる。 「腫瘍を膨張、肥大化させる疑いがある・・・」 花音は書類の内容を呟き、茫然とする。 礼治は美亜の方を見て、また話し始めた。 「美亜さんの脳腫瘍も、薬のせいで悪化してます。主治医はそれを隠して薬を飲ませ続けていました。美亜さんは・・・明日にでも手術の準備の為に国外に飛ぶ手筈になってます」 「え!?」 美亜にとって、それはあまりにも寝耳に水な話であった。 「皆とは・・・今日でしばらくお別れ、という事ですか」 「はい・・・早めに処置しなければ、命に関わる可能性もあるそうです。本当なら、すぐにでも吉太郎さんは美亜さんを連れていきたいでしょうが・・・美亜さんが居なければ、花音に真実が伝わらないような気がして1日だけ猶予を頂きました」 「元々、腫瘍が大きくなっとった花音は・・・その薬のせいで死期が早まったっちゅう事か?それも、美亜ちゃんに使う薬の効果を確認する為にか!?」 花音はその場にへたりこみ、虚ろな瞳で手から落とした薬を見つめる。 「先生は・・・優しかった。自分は独身だけど、年齢的にワタクシくらいの子供がいてもおかしくないから、元気になったら養育里親登録をしてワタクシを養子にしたいと言ってましたわ」 花音の瞳から、大粒の涙がこぼれた。 「だから、ワタクシ・・・そんな面倒な事しなくても先生だったら恋人にしてあげますわよって・・・言って・・・」 そんな花音の姿を見た麗美は、もう耐えられなかった。 花音に駆け寄り、強く強く抱き締める。 すると、リクライニングシートに横たわっていた中嶋がムクッと身体を起こし、バタバタと音を立てて野中がシアタールームに飛び込んできた。 「ゲームクリアしたの!?」 そんな野中を晶は強く抱き締める。 シートに座りながら、中嶋は礼治を見つめた。 「上手くいったみたいですね」 「はい、怒りと憎しみが深い悲しみに変わっただけで解決では無いんでしょうが・・・呪いの根源となる力が消えたから、呪いも解けたんじゃないかと。それより、中嶋さん!なんて無茶な事を!」 シートから軽やかに降り、中嶋は不敵な笑みを浮かべて告げた。 「信じてるって、言ったじゃないですか。見てませんでしたけど、まさかヒヨってました?」 「中嶋さんって、どうしていつも人をからかうような態度なんですか?この際、言っておきますけど・・・」 言い合っている礼治と中嶋を美亜は、寂しそうに見つめていた。 そんな美亜を香住が背後から抱き締める。 「か、香住さん?」 「今日のところは、中嶋ちゃんに花を持たせてあげよう?」 「ふふ、香住さんは本当に余裕がありますね」 こうして、四人はとうとう呪いから解放された。
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