Lv.136 さよならの土曜日

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Lv.136 さよならの土曜日

「呪いは解けたけど、はつけなぁアカンな!ほら、花音。皆に言うことあるやろ?」 「・・・皆さん、本当にすいませんでした」 花音はまだ、心の整理がついていなかったが自分の中で渦巻いていた怒りと憎しみが何なの分かった事で呪いをかける力を失った。 「色々ありましたが、諸悪の根源は花音じゃありませんし・・・僕は花音を恨んでいませんよ。今だから言えますが、僕にとってはギフトみたいなモノでしたし」 「呪いが、ギフト?」 礼治は、すっかりおとなしくなった花音に微笑みかける。 「僕は小説さえ書ければ、他に何もいらないと思っていました。小説を書けなくなって、苦しい思いもしましたが・・・皆と出会うきっかけになったのは事実です。それに、色々な経験をしたおかげで人としても小説家としても少し成長できたと思います」 「礼治は女に甘いよなぁ~そんなあっさり許しちまったら、何にも言えないぜ」 「私も、リーダーと同じ感じかもなぁ~実力さえあれば何でも自力でどうにかなるって本気で思ってたし。皆と出会えて成長したと思う。素敵な彼氏もできたし」 野中が笑顔で晶を見ると、晶も照れくさそうに笑顔で返す。 「確かに、野中は出会った時とは見違えたわよね~私も、美亜ちゃんや中嶋ちゃんと出会えてなかったら、元カレにひどい目に合わされてただろうし。良かったのかもね!」 花音は皆の暖かい言葉に胸を痛めながら、中嶋を見る。 中嶋は無表情で花音に歩みより、右手をあげた。 殴られるのかと思い、思わず目を閉じるが・・・中嶋は、そんな花音の頭をそっと撫でた。 「もう、悪い事しちゃダメよ」 美亜は、恋をした事が無いから恋をしてみたいという動機から礼治を好きになり、沢山の友人ができた事を嬉しく思う反面、皆としばらく会えなくなる事を心から寂しいと思った。 自分の感情を抑える事ができなくなり、涙が溢れ出す。 「み、美亜さん!?大丈夫ですか?」 「寂しいです!これから、暫く皆と会えなくなるのが寂しくて寂しくて、仕方ありません!」 涙を止める事ができない美亜を見て、野中は軽く咳払いして歌い出した。 その声は美しく、それでいてどこか力強く、聴いている全員の心を落ち着かせた。 歌い終えると、美亜の涙は止まっており全員が拍手をする。 「美樹、本当に歌が上手いんだな!」 「晶に聴かせる約束してたけど、せっかくだし皆に聴いて貰いたくなっちゃった!どう、美亜ちゃん。少しは落ち着いた?」 「野中さん・・・ありがとうございます。おかげで、落ち着けました」 そんな中、インターホンのチャイムが鳴り響き全員でシアタールームを出て、玄関に向かう。 ドアを開けると、そこには磯野の姿があった。 「土曜日になったから、約束通り美亜様を迎えにきたわ」 美亜は皆の方を振り向き、各々の顔を見て笑顔を浮かべる。 「先生、約束は・・・また先送りになっちゃいましたが、待っててくれますか?」 「勿論です。元気になって、帰って来て下さい」 「晶さん、野中さん、本当にお似合いですよ。末永くお幸せに!」 「美亜ちゃんが応援してくれたおかげだよ!元気になったら、また遊びに行こうね!」 「また、観覧車乗りに行こうぜ!」 「麗美さん、花音さん、麗美さんとはお話しできなかったのが残念です。花音さん、私・・・」 「私が死んだのは、美亜さんのせいではありませんわよ?お気遣い無く。腫瘍を治してワタクシの分まで生きて下さいね」 「香住さん・・・先生にちょっかい出さないで下さいね?」 「このチャンスを逃す訳無いでしょ?って言いたいとこだけど、私も仕事でしばらく日本を離れなくちゃならないのよねぇ~だから、勝負はお預けよ」 美亜は、最後に中嶋を見つめる。 「中嶋さん・・・」 「御安心を。先生が美亜様と香住さん以外の女性にうつつをぬかさぬよう、私がしっかり見張っておきますので。まずは、お身体をご自愛下さい」 「ふふ、じゃあ・・・先生の事は中嶋さんに任せようかしら」 「中嶋さんも美亜さんも、僕の貞操観念が低いみたいな言い掛かりをつけないで下さいよ。こう見えても僕は・・・」 礼治は今までの自分の行いを、ふと思い出す。 そして、言葉を失った。 そんな礼治を中嶋と野中が無言で見つめる。 「先生・・・何ですか、この間は?」 「今日から、本格的に小説を再開します!美亜さんがヒロインの小説ですから、帰ってくるまでに仕上げておきますので楽しみにしていて下さい!」 礼治の言葉を聞き、麗美と花音は顔を見合わせる。 「なんや、ウチらと似てるなぁ」 美亜は皆に手を振り、磯野と共に車に乗り込む。 車から、和歌子が顔を出して礼治を見つめた後に皆に向けて会釈する。 そして、車は走り去って行った。 「ねぇ、礼治君。今の美亜ちゃんのお姉さん?」 「いや、お母さんですよ」 「何故、和歌子様は先生をあんなに見つめてらっしゃったのですか?」 「そういえば、色っぽい視線だったわね。まさか、礼治君・・・」 「・・・先生?」 「き、君たちは何か勘違いをしているようだが、単に目が合っただけじゃあないか!」 「は?何ですか、その狼狽えかた!全く、先生は油断も隙もありませんね。ちゃんと真面目に小説書いてるか、確認しに行きますからね!」 そんな中、1台のセダンが家の前に停まった。 車から降りてきたのは・・・吉太郎だった。
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