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Lv.137 復讐は月曜日
「どうしたんだい、今日は検査の日では無いじゃないか。それに、美亜さんは?」
月曜日の昼過ぎ・・・この日、突然面会を求めてきた吉太郎を部屋に通し、医局長でもある美亜の主治医は椅子に腰かけたまま問いかける。
「美亜は手術の為、既に海の向こうだ」
吉太郎の言葉を聞き、局長は深い溜め息を吐いた。
「信頼してくれてると思ったんだかな」
「信頼していたさ。だからこそ、自分自身にも憤慨しとるよ。ワシへの復讐の為、関係ない少女まで巻き込むとは・・・見下げ果てた輩だ!」
「復讐・・・とは、少し違うんだがね。正さなければならなかった私という人間が、君という人間に劣っているという間違いを」
「そんな考え方をしとるから、和歌子にも見限られたという事が何故わからんのか・・・哀れなヤツだよ、お前は」
局長は白衣の襟を軽く直すような素振りを見せ、ゆっくり立ち上がった。
「で、警察も来るのかね?君の事だから証拠も揃えているのかな?」
「言い逃れできん証拠は揃っている。お前は終わりだ。罪の意識を感じてるなら自首しろ」
「・・・これ以上の話は弁護士を通して行おうか」
「自首するつもりは、無いのか?」
「あると思うか?」
吉太郎は、ポケットからディスクケースを取り出し局長の机に置いた。
「これは、お前に反省の色が無いようなら渡してくれと頼まれたモノだ。置いておく」
そう言い残し、吉太郎は部屋を出た。
局長はディスクケースを手に取った。
「なんだ、これは・・・『骨の森 サンプル』?あぁ、確か入院していたモルモットが死ぬ前にやりたいとか言ってたVRゲームだ。下らん。良心の呵責に訴えようという魂胆か?どこまでも甘いヤツだ」
局長は手にしたディスクケースをゴミ箱に放り投げる。
「・・・妙だな。落ちた音がしなかったぞ?」
ゴミ箱を覗きこむと、そこにディスクケースは無かった。
「・・・薄気味悪い。弁護士に連絡する前にクラシックを聴いて気分転換でもするか」
CDプレイヤーをリモコンで操作した瞬間、突然!部屋にあるテレビモニターがひとりでに映り、画面に『骨の森』のタイトルが現れた。
シュイイイイイイイイン・・と、ディスクが回っている音が部屋に響く。
「この音は、CDプレイヤーでは無い?」
テレビモニターの方を見ると、置いた記憶の無いVRマシンがテレビに繋がれていた。
「だ、誰がいつ、こんなものを!?」
奇怪な現象が続き、局長は狼狽え始める。
部屋に居るのが危険と感じた局長は、ドアを開けようとドアノブを回すがガチャガチャ音をたてるばかりで開かない。
「何故、ドアが開かん!?おい、誰かいないか!?クソ、仕方ない・・・」
スマホを取り出し助けを呼ぼうとするが、スマホの画面は真っ暗で起動しない。
「どうなってるんだ・・・ハッ!?」
背後から、気配を感じる・・・局長は恐る恐る、振り向いた。
振り向いた先のテレビモニターには、死んだはずの花音が映っており局長を無表情で見つめている。
「き、君は・・・脳腫瘍の!?し、死んだはずじゃ!?」
「悲しいですわ・・・名前も覚えてらっしゃらないのですか?」
花音は、画面から這い出て局長へと歩み寄る。
「く、く、くるな!くるなー!!」
局長は窓際へと逃げるが、ここは病院の四階。飛び降りたらタダでは済まない。
「わ、私を恨んでいるなら筋違いだ!君は、どうやっても助からなかった!死期が早いか遅いかの違いしか無い!」
「先生には1分1秒でも長く生きたいと思う気持ちが、おわかりにならないようですね。医者、失格です」
花音が言い終えると同時に突然、窓が開き外から現れた麗美が白衣を強く引っ張った。
「は?はぁぁぁぁー!?」
0.3秒にも満たない空中遊泳の後、局長は花壇に落下した。
「・・・ん・・・ここは、どけだ?手足が上手く動かないぞ?痺れているのか?頭も重い、頭痛が酷い、視界も違和感がある・・・これは、脳腫瘍の症状か!?」
二人の看護婦、花音と麗美が病室のベッドに横たわる局長に食事を持ってきた。
「はい、ご飯の時間でちゅよ~」
「お仕置きの・・・やけどな」
皿には色とりどりの金平糖と見覚えのある錠剤が入っている。
「ちょ、と、待ってくれ・・・その錠剤は!私が調合した・・・」
局長は意識不明の状態で運び込まれて行った。
病院の外にあるベンチに腰かけ、礼治の小説を読んでいた中嶋は本をパタンと閉じ空を見上げた。
そこには、今までハッキリ見えていたはずの麗美と花音が薄れていく姿があった。
「なんか、あのカス生きてますが・・・良いんですか?」
「せやけど、二人で力を合わせて最後の呪いをかけたんやで。本心から悔い改めるまでは、覚めない夢の呪いや」
「うふふ・・・もしかしたら、一生目覚めないかも知れませんわね」
「二人がそれで良いのなら、私は一向に構いませんよ。もう、成仏されるのですか?」
どんどん姿が薄れていく・・・微かに聞こえていた声も聞こえなくなり、晴れた空に吸い込まれるように二人は中嶋に手を振って消えてしまった。
「さて、先生がちゃんと小説書いてるか見に行こうかな」
誰も居なくなった局長室にクラシックの音色が響き、点いたままのテレビモニターには、もう何も映ってはいない。
自殺未遂として片付けられた現場に、あのディスクケースは見当たらなかった。
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