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Lv.139 あとがき
あとがき・・・この小説『腐り行く愛の果てに』は私にとって始めての恋愛をベースにした作品で・・・
礼治の担当編集者は、小説を読み終えて電話をかけた。
「あ、ヒナアサ先生、送って貰った作品、今読み終えました。有りか無しかで言ったら、個人的には有りなんでプッシュしておきます!」
「あ、ありがとうございます!宜しくお願いします!」
電話を終えた礼治は、すぐに美亜にラインを送る。
『手応え有り、です!』
すると、すぐに返信が返ってきた。
『良かったですね!』
無事に手術を終えた美亜は経過を見るためにまだ海外におり、年明け前には返ってくる予定になっていた。
それは良いのだが、師走なので二人きりの時間は過ごせそうにないし、卒業したらオーストラリアに行ってしまう。
礼治の隣に、完全復活した全身黒タイツに身を包んだ『ヤったレイジ』と謎のキノコたちが現れ、礼治に囁く。
「礼治よぉ~もう、香住も海外行っちまったし美亜もいないし、その娘にしようぜ?」
ヤったレイジは、台所に目を向ける。
そこには礼治の世話を焼きに来た制服にエプロンをかけ、髪を一つ結びにした中嶋の後ろ姿があった。
「バカか?月まで吹っ飛ばされるぞ」
「先生、何か言いました?」
「いえ、何も!」
一瞬、中嶋の方を見て視線を戻すと・・・もう、そこにはヤったレイジたちの姿はなかった。
微かに「オロロ・・・」というちょっと不気味な鳴き声が聞こえたような気がした。
中嶋がちゃぶ台にカレーライスを置く。
「先生、小説に没頭してると平気で食事しないでいるから、こうして時々ご飯を作りに来てましたが・・・今日でこれも最後ですね」
「いやはや、ご面倒おかけしました。おかげさまで編集さんから手応え有りの電話も頂けました。ありがとうございます」
ちょっとカレーライスの量が少ないなぁ。と、思いながら礼治は中嶋の作ってくれたカレーを口に運ぶ。
「カレーライス見ると、やっぱり『骨の森』を少し思い出しますね」
「ですね。でも、今日は何だかカレーを食べさせたい気分でした」
食べ終わると中嶋は立ち上がり食器を持って台所に行き、洗い物を始めた。
いつも通り、終わったらさっさと帰るのかな。と、思いながら礼治は中嶋の後ろ姿を見つめる。
しかし、帰る素振りを見せる事無く箱を持って戻ってきた中嶋は、それをちゃぶ台に置いて礼治に開けて見せた。
そこには、苺の乗ったショートケーキが入っていた。
「うわ、美味しそうなケーキですね!あ、だからカレーライスがちょっと少なめだったんですか?」
「ふふ、ご名答。小説の完成祝いに作ってきました。どうぞ、御召し上がり下さい」
「美味しい!いや~普段、塩対応の中嶋さんがこんなサプライズしてくれるなんて、感動しました!」
「それ、本人の前で言いますか?今日だけは、特別に優しくしてあげますよ。では、目を閉じて口を開けて下さい」
そう言って、中嶋は苺をつまむ。
「はい、あ~ん」
苺を食べさせてくれるんだ。礼治は子供のように素直に目を瞑って口を開く。
唇に触れたモノは苺よりも遥かに柔らかく、口に入った感触が舌をとろけさせた。
驚いて目を開けると、そこには髪をほどいて眼鏡を外した中嶋が頬を赤らめ、息がかかるほど間近で礼治を見つめている。
「嫌なら、拒絶して下さいね?」
密かに料理をしている中嶋を見て、度々『きめらぶ』のワンシーンを思い出してはムラムラしていた礼治は・・・その誘惑に抗う事ができなかった。
服を着た中嶋は、黙って立ち上がり鞄を手に取って玄関へ向かう。
ベッドから、その後ろ姿を見た礼治はあることに気付き思わず声をあげた。
「髪・・・伸ばしてたんですね」
出会った時はミディアムボブのストレートヘアだった中嶋の髪は、いつの間にか美亜と同じ背中まで伸びていた。
中嶋は足を止め、少し振り向いて礼治に言う。
「はい。それと『きめらぶ』見ましたよ」
美亜と重なる長い髪、きめらぶの模倣・・・礼治の表情が凍りつく。
中嶋はニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべて別れの言葉を告げた。
「さようなら、ヒナアサ先生」
この日を境に、中嶋が礼治の部屋を訪れる事は無かった。
【Lv.140 で、良ければ】
「クリスマス・イヴか・・・」
そう呟き、礼治は自分のスマホを覗きこむ。
礼治は昨日から、実は何度も何度もスマホを見ていた。
その思考は砂糖よりも甘く「誰か誘ってくれるのでは?」という内容で、念のために休みまで取っていた。
だったら、自分から誰か誘えば良いのに・・・とは思うが、礼治は晶と香住、美亜の連絡先しか知らなかった。
美亜も香住も今は海外、晶は野中と過ごすだろう。
小説は書籍化に向けて順調に進んでいるが、礼治自身は立ち止まって足踏みしているように感じていた。
やがて夜になり、礼治はベッドに寝そべり天井を見つめながら一人で呟く。
「結局、俺の手元には何も残らなかった。その場の雰囲気に流されるばかりで・・・まぁ、美味しい思いはしたけれど。晶みたいにはいかなかったな。小説を書き終えてしまった今は、呪われていた時の方が楽しかったとさえ思ってる」
ピンポーン
その時、唐突にインターホンが鳴った。
「お届け物でーす!」
こんな時間に荷物が?あまり見たことが無い制服の配達員二人が、玄関に荷物を置いて去って行った。
結構、大きな段ボール・・・宛名には『皇 美亜』と書いてある。
「美亜さんから、クリスマスプレゼント!?ラインでやり取りした時は海外だしプレゼント交換は難しいって言ってたのに」
さっそく、段ボールを開けて中身を確認しようと手を伸ばす。
パカーン!と、ひとりでに段ボールが開き・・・中からサンタコスの女性が飛び出した!
「サンタクロースから、サンタクロースのお届けにあがりました!」
びっくり仰天した礼治は後ろにひっくり返り・・・頭を打って気を失ってしまった。
「先生、大丈夫ですか!?」
眼鏡を外しているので、視界がボヤける。
目を凝らすと、逆さになった美亜の顔が眼前に現れた。
「す、スメラギさん!?あ、ひ、膝枕!?」
慌てて身体をお越し、眼鏡をかけると心配そうな表情の美亜と冷めた目をした中嶋の姿が目に映る。
・・・これは、初めて『骨の森』をプレイして気を失った時の夢?
夢から覚め、目蓋を開けると・・・逆さになった心配そうな表情の女性が眼前に現れた。
「美亜さん?」
それは、髪は短いが紛れもなく美亜だった。
「先生、大丈夫ですか!?」
「いや、ビックリしました・・・髪、切ったんですね」
ショートボブの美亜は、サラサラした前髪を少し触りながら問いかける。
「手術の為に切らなくちゃならなくて・・・これでもだいぶ伸びたんですが、どうでしょうか?」
「似合ってますよ。あ、ひ、膝枕!?」
あの時と同じように、礼治は慌てて身体を起こす。
そんな礼治を見て、美亜は思わず笑いだしてしまった。
「うふふ、なんか先生って呪いが解けても変わらないんですね」
「はい・・・お恥ずかしい。今日も皆と過ごした思い出に浸りたくて、レンタルショップにホラーを借りに行ったんですが・・・一人で見るのが怖くなって、そのまま帰ってきました。俺は呪いとは関係無く、ホラーは苦手みたいです」
「私は、すっかりホラーが好きになってしまって時間がある時はホラー映画ばかり見てますよ」
久しぶりに会った元気な美亜は、とにかく輝いて見えた。
「美亜さん、俺はどうしようも無くダメな男で曖昧な関係だとすぐに流されてしまいます。だから、やっぱり・・・ハッキリと伝えさせて下さい」
二人は見つめ合い、礼治はとうとう思いを告げる。
「君が好きだ。遠く離れていても、どうか俺と付き合って下さい」
「留学は3年ですよ?」
「はい、分かってます」
「ホラー好き・・・で、良ければ」
そう言って、美亜は頬を赤らめた。
礼治は美亜を抱き寄せようと、身を寄せる・・・が!突如、激しくインターホンが鳴った。
ピンポーン!ピンポン!ピンポン!ピンピンピンポーン!!
ガチャ・・・誰かが勝手にドアノブを回す。
「あれ、空いてるぞ?礼治ー!寂しいクリスマス・イブを過ごしてるお前の為に、サンタクロースからサンタクロースのお届けだぞー!」
現れたのは、サンタコスの晶、香住、野中・・・そして、トナカイ風のベージュサンタワンピースを着た中嶋だった。
「ヤッホー!礼治君、この日の為に香住お姉さんが帰国してきたよー!」
「リーダー、お久しぶり~元気してたぁ?」
「先生が寂しがってるって聞いて、仕方なく来ました」
石のように固まっている礼治と美亜が、四人の視界に入る。
「あら?もしかして、お邪魔だったパターンか?」
「ちょっと、美亜ちゃん!?うわぁ~考える事は一緒かぁ~」
「これ、もう少しタイミングがズレてたら濡れ場だったんじゃない!?惜しい!」
「時々、気が利いた事をするのが晶さんの良いところで、時々、調子に乗って余計な真似をするのが悪いところですね」
中嶋はフッと笑いながら礼治に目を向ける。
思わず、目を逸らす礼治。
更に、美亜にそっくりな顔をした女性が玄関から顔を出す。
「兄ちゃん、一人で寂しがってるかと思って遊びに来たよー!」
それは、女装した扇郎。更に、その後ろから扇郎のボディーガードの磯野、磯野兄も顔を出す。
「なんで時間外なのにボディーガードしなきゃならないワケ?」
「克美、この扇郎様の女装クオリティーを見ろ!危険が及んだらどうする!」
「ハイハイ・・・てか、美亜様いるんですけど?」
更に、その後ろから吉太郎と和歌子も顔を出す。
「あら、美亜?まさか、家族にも内緒で帰国してるなんて・・・あざとく成長して、母さん嬉しいわ!」
「アカンだろ!ワシは認めんぞー!」
「てか、この部屋にこの人数は狭すぎるね。そうだ、姉ちゃんの別宅に移動してパーティーしようよ!」
扇郎の提案で、一同ゾロゾロと移動を開始。
吉太郎が用意した豪華な食事と飲み物が、テーブルの上を埋め尽くす。
「社長、朝比奈先生の為に用意したの?」
磯野は吉太郎にそっと問いかける。
「フン!扇郎が寂しいクリスマス・イブを過ごしているに違いないと言うから、仕方なく用意しただけだ!」
美亜の別宅は、これまでに無い賑わいで笑顔と笑い声に包まれていた。
クリスマスパーティーが始まり各々が好き勝手過ごす中、美亜はソファーに座っている中嶋の隣に
腰を下ろす。
「中嶋さん、髪伸ばしたんですね」
「美亜様は髪をお切りになられたんですね。似合ってますよ」
「ありがとうございます。ところで、ちゃんと先生に悪い虫がつかないように見張ってくれてましたか?」
「はい、それは、もう・・・」
「それは、中嶋さんも含めて?」
中嶋は軽く首を傾げ、いつもの小悪魔的な笑みを浮かべて美亜に告げる。
「ご想像にお任せします」
それを聞いた美亜は、大きな声で礼治を呼ぶ。
「先生ー!!ちょっと、こっちに来て下さい!今すぐ!」
チキンを頬張りながら、何事かと声のする方を見ると・・・膨れ面の美亜と笑みを浮かべる中嶋がいた。
青ざめながらロボットのように歩を進める礼治を遠目で眺める晶は、胸で十字を切る。
「あれは、いくら俺でも助けてやれないわ」
「修羅場だねぇ~晶も浮気したら、タダじゃおかないからね?」
「大丈夫、俺は美樹が一番だから」
礼治が美亜に問い詰められてる隙に、中嶋はこっそり席を立つ。
そんな中嶋に香住が後ろから抱きつく!
「な・か・じ・まちゃん!逃がさないわよぉ~お姉さん、怒らないから一部始終話しなさい!」
「か、香住さん!?おっぱいの弾力がえげつないんで、あまり強く抱き締めないで下さい!」
ワイワイガヤガヤする中で扇郎は、ふとテレビの方を見る。
「ん?なんか、レトロゲーム機があるな。『ハサミちゃん』ってソフトが入ってる・・・お、VRマシンもあるじゃん!ソフトは・・・『宮田闇』に『Sack』・・・あ、これ!大ヒット中のホラゲーもある!確か、四人でできるんだっけ?なんか、小さくサンプルって書いてあるけど、普通に遊べるのかな?」
扇郎は手に取ったゲームディスクをVRマシンにセットした。
「あれ?」
「どうしました、先生?また、話をはぐらかすつもりじゃあないでしょうね!?」
ご立腹の美亜に、礼治はネックレスのトップに触れながら言った。
「いや、なんか今・・・皆から貰ったパワーストーンのアクセサリーが微かに震えたような気が・・・」
真っ暗なモニターに、血のような赤い文字でタイトル画面が映し出された。
『骨の森』
ホラー小説で良ければ・・・おしまい!
この物語はフィクションです。登場人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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