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Lv.16 たかせ かすみ
四年前、香住はパチンカスのバンドマンと交際していた。
高校卒業後、すぐにアパレル関係の仕事についたが交際相手がパチンコをする為に作った借金とパチンコをする金を稼ぐ為に夜はキャバクラでも働いた。
当時の香住は高校時代の憧れの先輩であったパチンカス野郎がバンドマンとして再起する事を信じていた。
実際はギターを買うとか言って金をせびり、パチンコに使っていただけで後から分かった事だが、バンドからも追放されていたような輩だった。
借金が増していく中、香住はパチンカス野郎に土下座されソープでも働く事になった。
そして、偶然にも客としてやってきたのが礼治だった。
「え?香住さん・・・ですか?」
「れ、礼治君!?」
弟の幼なじみが客としてやってくるなんて・・・ソープで働いている事は家族に内緒にしていたので香住は礼治に口止めをする。
「なるほど・・・エロDVDやエロ漫画によくある展開ですね。僕が悪人なら、揺すられてもおかしくない展開ですね」
「礼治君って、そういう人なの?」
大人しそうな印象しか無かった礼治の言葉に、香住は身構える。
「流石に、友達の姉を揺すったりはしませんよ。僕の目的は、あくまで小説に必要な体験をする事・・・なので、3回だけリクエストに応じてもらえれば他言無用にします」
「ご、ゴム無しとかは無理だからね!?」
「なるほど、それは残念です。が、そこまでは求めませんよ。今回は、女性が積極的な描写の参考にしたいので、そういう感じでお願いします」
この時、礼治は少し意地悪な振る舞いをした。
女に対して、あまり感心が無かった礼治だったが幼い頃から知っていた友人の姉・・・小さい頃は一緒に遊んだりもしていた存在である香住に対して、密かな憧れもあった。
そういった経緯もあって、複雑な心境が少しばかり態度に出てしまったのである。
礼治の初体験は、こうして終了した。
初めてだった事は伏せ、礼治は冷静を装い香住に言う。
「では、また来月来ますね」
「ライン、交換しとかなくて良い?私、そんなに沢山は仕事入れてないよ」
「そうですね。居なかったら困りますし・・・お願いします。あと、いまいちやり方わからないので、操作して貰えますか?」
そして、二回目は男性側から積極的な描写の参考にしたいと香住にお願いした。
「じゃあ、私は完全に受けで良いのかしら?」
「そ、そうですね・・・」
明らかに挙動不審な礼治を見て、香住はピンときた。
「もしかして、礼治君って・・・こないだのが、初めて?」
図星をつかれ、取り繕っても無駄だと思った礼治は小さく頷いた。
「なら、今回も私がリードするよ。次は礼治君が攻めやすいようにするから」
香住にとっても、それは恥ずかしい行為だった。
何しろ、自分の性感帯を一つ一つ教えるのだから恥ずかしくない訳が無い。
「香住さん、そこが感じるのって・・・一般的ですか?」
「だいたい、みんなそんなもんよ。できれば、指より舌の方が・・・」
ヤバい、本当はどうなんだろ?私が変だったら、小説の内容にも影響しちゃうかな?
いや、そこまで面倒見る義理は無いわ・・・とりあえず、次の為にも上手くなってもらわなくちゃ!
二回目はこんな感じで終わり、三回は予定通り礼治が攻める側になった。
四回目・・・最後は、激しく男女が求め合う描写の参考にしたいと言うと香住は少しだけ寂しい気持ちになった。
「これで最後なんだね。じゃあ、ちょっとシチュエーション作ろっか?」
「シチュエーションですか?」
「そう、私たちは恋人同士だけど今日が最後の夜になるの。だから、激しく互いを求めあう・・・っていうのはどう?」
「なるほど、でも具体的にどうすれば良いんですかね?」
香住は、まだ上着を脱ぎかけていた礼治の顔を強引に自分に向かせて唇を奪った。
長く、激しいキスに礼治はされるがままになる。
唇が糸を引いて離れると、香住は礼治を見つめながら言う。
「そういえば、キスしてなかったよね?」
「そう、ですね」
「順番、狂っちゃったね」
そう言った後、再び香住は礼治の唇を奪いベッドに押し倒す。
息ができなくなりそうな激しいキスの後、また香住は礼治を見つめる。
「好き、大好き・・・礼治・・・好きだよ」
これは演技なのか?だとしたら、女優になれるんじゃないか?
負けじと、礼治も香住に答える。
「僕も好きです・・・香住さん」
最後の夜は、お互いに激しく求め合い・・・幕を閉じた。
その後、まとまった金を稼いだ香住はソープを辞めてパチンカス野郎にそれを渡して別れを告げた。
「はぁ・・・夢があるって良いなぁ。礼治君、小説上手くいくと良いな」
もう、会う事は無いと思うと正直、寂しいとさえ思っていた。
が、それから数ヶ月たったある日・・・香住が家に帰ると見覚えのある靴が玄関にあった。
「この靴、礼治君?」
居間に入ると、晶と礼治が酒を飲んでいた。
「お、おかえり姉ちゃん!実は、礼治の小説が賞をとったんだぜ!来年、書籍化するんだってよ!今日、そのお祝いって訳で宅飲み中でーす!」
酔っ払った晶を尻目に香住は礼治を見つめる。
「小説、上手くいったんだね」
「・・・はい、ありがとうございます」
「じゃ、私もお祝いしよーかな!」
これをきっかけに、香住は自分の好きな事に本気で取り組みたいと思うようになり、服飾デザイナー専門学校に入学する決意をした。
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