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Lv.17 接敵now
昔を思い出しながら、香住は晶に問いかける。
「今回は何飲み?もしかして、礼治君の作品がまた書籍化するとか?」
「いや、書籍化どころか今、礼治のヤツ小説書けない状態でヤバいんだよ。で、それを克服する為に社長令嬢とイチャイチャしながら色々やってんだよね」
晶の言葉を聞き、香住は血の気が引いた。
「いや、全く話が見えないんだけど?もっと詳しく聞かせなさい!」
「え~?もう、眠いってぇ~明日は仕事だから、また今度な。おやすみ~」
そう言って、晶は洗面所で歯磨きした後、自室がある二階へと上がって行った。
香住は舌打ちをし、スマホを手に取る。
礼治とは、あれ以来ラインでやりとりしていない。
「晶の言ってた事が気になってしょうが無い・・・けど、明日はファッションデザインコンテストの発表日だし、そろそろ寝ておかないと・・・」
明日の結果が気になって、なかなか眠れないでいた香住・・・とにかく、色々考えるのは明日にしよう。そう自分に言い聞かせ、床についた。
翌日・・・
香住は、この日の為にアパレル関係の仕事を退職し専門学校に入学、学費の為に夜はキャバクラでバイトしながらファッションデザインの猛勉強に励んできた。
そして、見事に入賞した!
学友、先生からも賛辞を送られ「あぁ、やっと私もスタート地点に立ったんだ」そう、喜びを実感していた。
家族や応援してくれていた友人にラインし、最後に礼治のアイコンに触れた。
4年前、出勤の確認をする端的な内容のライン。
香住にとって、礼治は夢に向かう姿勢を学ぶきっかけとなった人物であり、本当は気になる存在でもあった。
しかし、恋愛は周囲が見えなくなったり冷静な判断が出来なくなる。
それを学んだ事もあり、何か結果を出すまでは連絡しないでおこうと決めていた。
「・・・甘かった。礼治君の良さは、親しくならないとわからないし、女性に興味ないタイプだったから彼女なんか、そう簡単には出来ないとか思ってたけど・・・何なの、社長令嬢とイチャイチャってどういう事?ラインするべきかしら・・・賞とったから、今度は礼治君が私のお祝いしてよ!って?いや、何様よ?アー!モヤモヤする!」
独りごとを言いながら、歩き続けた結果・・・気がついたら、香住は礼治のバイト先であるコンビニの前に立っていた。
「え?私、無意識でここまで歩いてきたの?ヤバっ!」
コンビニの前で仁王立ちしていると、ふわっと良い香りがすり抜けて行った。
通り過ぎた女子高生・・・美亜に目を奪われる香住。
「キレイな娘・・・私のデザインした服にマッチしそう」
引き寄せられるように、香住は美亜の後を追いコンビニに入る。
さっきの娘、いない?お客さんじゃないの?
辺りをキョロキョロ見渡す香住を見つけ、品出しをしていた礼治は思わず声をかけた。
「香住さん?」
「れ、礼治君!?」
「お久しぶりです。買い物ですか?」
「あ、いや、その・・・私、あれからファッションデザインの専門学校で勉強してたんだけど」
「はい、高瀬から聞いてましたよ」
「それでね、今日、私のデザインした服が賞をとったの」
礼治は目を見開いて、笑顔を浮かべた。
「おめでとうございます!凄いですね・・・」
「頑張ったんだよ・・・これも、礼治君との事がきっかけで・・・」
話の最中、スタッフユニフォームに着替えた美亜が現れ、礼治に声をかけた。
「先生・・・じゃなかった。朝比奈さん、お知り合いですか?」
美亜は礼治と向かい合っている香住を一瞥する。
香住はレディースジャケットに細身のパンツでラフな格好をしていたが、そのナイスバディは一目瞭然で、美亜からしたら凶器に見えた。
「あぁ、前にナンパしてきた輩共を追い払ってくれた警官の高瀬のお姉さんだよ」
あ、さっきの美少女・・・そう思いながら、香住は美亜に会釈した。
二人の目と目が合った瞬間、互いに同じ事を感じた。
この女・・・敵だ。
先手を打ったのは、香住だった。
「前は礼治君が小説で賞とった時にお祝いしてあげたでしょ?今度は礼治君がお祝いしてよ!」
「あ、はい。じゃあ、高瀬と一緒に飲みにでもいきましょうか」
ハー!どうだ、小娘!酒の席には入ってこれまい!
香住は心の中で悪魔的にほくそ笑む。
「先生、行っても良いですけど金曜日は私と約束があるんだからダメですよ」
負けじと美亜は、親密な関係をアピール!
と、そこにお客さんが入ってきて試合は中断された。
「いらっしゃいませー」
二人の戦いを知るよしも無く、礼治はカウンターへと向かう。
その場に残った美亜と香住は作り笑顔で向かい合っていた。
「私は高瀬 香住。弟同様、礼治君とは幼なじみなの。宜しくね」
「私は皇 美亜です。先生の小説活動を全面的にバックアップしてます。宜しくお願いします」
「へぇ、彼女じゃないんだ?」
「今は、違います」
「なるほど・・・じゃ、今日のところは買い物して帰るわ。またね、美亜ちゃん」
美亜は店内で、香住は帰り道で互いに気づかされていた。
「やっぱり、私って礼治君の事が好きだったんだ・・・」
「私、先生の事が好きなんだ。初対面の人に敵意剥き出しにするくらい・・・」
小さな声で呟いた美亜に、何も知らない礼治が声をかける。
「美亜さん、何か言いました?」
「何でも無いです!先生、じゃなかった。朝比奈さん、品出し途中ですよね?ちゃっちゃっとやって下さい!」
何故か不機嫌な美亜にたじろぐ礼治は、いそいそと品出しを再開した。
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